リファレンスチェックは違法? 実施の際に会社が気を付けるべき点とは

2021年11月15日
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リファレンスチェックは違法? 実施の際に会社が気を付けるべき点とは

近年、中途採用の選考において「リファレンスチェック(前職調査)」を行う企業は少なくありません。書類や面接ではわからない応募者の前職での勤務姿勢や勤務成績等を知って、採用のミスマッチを防止することなどに有効とされています。町田市内でも導入を考えている企業もあるのではないでしょうか。

一方、リファレンスチェックを行うことは、応募者の個人情報を得ることになるため、「違法ではないのか?」という心配の声もよく聞かれます。

そこで今回はリファレンスチェックと法律上の問題点、導入する際の注意点について弁護士がわかりやすく解説します。

1、そもそもリファレンスチェック(前職調査)とは

リファレンスチェックはよく外資系企業で導入されています。そこでまずは仕組みを簡単にご説明します。

  1. (1)リファレンスチェックとは

    「リファレンスチェック」とは、一般に中途採用の際、応募者の採用決定前に、応募者の以前の職場に勤務状況や働きぶり、実績等について問い合わせたり、調査会社等の業者を使ったりして、応募者の前職に関する情報を取得することをいいます。

    履歴書や面接、筆記試験では把握できない情報を応募者当人以外から集めて、採用可否の判断材料にしようとするものです。

    これらの情報収集は、採用プロセスにおける個人情報に関するものですから、個人情報保護法や職業安定法の規制にも注意する必要があります。応募者のリファレンスチェックを実施する場合は、これらの法令や行政上の指針にも適合する方法・内容で行う必要があります。

    リファレンスチェックは、一般的には応募者の前職の会社に本人の同意書を添付して書面照会する方法がとられています。リファレンス先は応募者に申告してもらうのが一般的でしょう。実際の調査は採用企業が直接行う場合もあれば、リファレンスチェックの専門会社を利用するケースもあります。

  2. (2)必ず応募者の同意のもとに行う

    リファレンスチェックの最も重要な点は、「必ず事前に応募者の同意を得なければいけない」という点です。応募者の任意の同意がないときは、実施してはなりません。

    応募者の同意は、個人情報保護法や職業安定法の規制をクリアするために最低限必要な要件ともいえます。同意は、応募者に実施する趣旨目的をよく説明した上で、書面で取得するようにします。同意書は、前職の会社に依頼する際に必要となりますし、後日のトラブルを回避する観点からも重要です

    応募者が同意を拒否した場合に、「同意しないなら採用しない。」等と同意を事実上強制したと受け取られるような対応はしないように注意する必要があります。

2、リファレンスチェックは違法?

個人情報を取得することになるため、個人情報保護法違反になるのではないかと心配する企業もあるでしょう。

  1. (1)リファレンスチェックは適切に行えば、違法ではない

    個人情報保護法では、次のように相手の同意なく個人情報を提供することを禁じています。
    「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」(個人情報の保護に関する法律第23条)

    リファレンスチェック先である前の職場が、本人の同意なく個人情報を応募先企業に提供すれば違法です。当然ながら前の職場であった企業も違法なことはしたくないため、本人の同意がなければそもそも回答には応じないでしょう。ちなみに、本人の同意があっても企業側に回答すべき法的義務はありません

    そもそもリファレンスチェックは応募者の同意があることが前提の仕組みですので、同意を得ていることを説明して、協力を依頼します。

    以上、リファレンスチェックも応募者の任意の同意を得た上で、採用可否の判断に必要な範囲で適切に行えば違法ではありません。

  2. (2)収集できる情報は限られている

    リファレンスチェックを行う場合、収集できる情報には以下のように制限があることに注意が必要です。

    まず、平成27年の個人情報保護法の改正で、新たに「要配慮個人情報」といわれる概念が導入されたことも収集できる情報の範囲を考える点で重要です。
    「要配慮個人情報」とは、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」(個人情報保護法第2条3項)をいいます。

    また、職業安定法も、「公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者及び求人者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者及び労働者供給を受けようとする者は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない」(職業安定法第5条4)と規定し、社会的差別の
    原因となるおそれのある事項の情報収集について厳しく規制をしています。

    本人の任意の同意があれば、情報収取自体は違法ではないとの見解もないわけではありませんが、企業としては、あらぬ誤解を与えないよう上記の法令等の趣旨を十分に理解して、適切にリファレンスチェックを行うべきでしょう

3、リファレンスチェックを行うメリット

リファレンスチェックを行うことには、企業と応募者それぞれに次のようなメリットがあります。

  1. (1)応募者のメリット

    リファレンスチェックがあると聞いて、「悪い話や失敗が伝わったらどうしよう」と心配になる応募者も少なくないでしょう。
    しかし、所定の履歴書や面接では伝わらない自分の魅力や能力を知ってもらえるチャンスでもあります

    履歴書に書ける内容は限られています。また面接で自分をPRすることが苦手な方もいるでしょう。
    そこでリファレンス先である前の職場の上司や同僚が、前の職場での堅実な働きぶりなど良い面を伝えてくれれば、大きく挽回できて採用につながるかもしれません。

    また採用企業に自分の職務能力や適性等を事前に情報を知っておいてもらうことで、配属部署も考慮されるなど、スムーズに働き始められるというメリットもあるのではないでしょうか。

  2. (2)企業のメリット

    企業にとってリファレンスチェックを行うことには、採用のミスマッチ防止というメリットがあります

    履歴書や面接で見られるのは、応募者の一面にすぎません。採用担当者による面接ではとても営業向きと判断していても、いざ採用してみると、実は事務職の方が向いている人材だったと困惑するケースもあります。

    採用後は、従業員を簡単には解雇できません。後で「求めている人材と違う」「トラブルメーカーだった」と判明しても後の祭りとなりかねません。企業が期待する人材を得るためにも、リファレンスチェックは有効かもしれません。

4、リファレンスチェックを行う際に企業が気を付けるべきこと

リファレンスチェックは企業にとってメリットもありますが、応募者の個人情報を収集する以上、次のようなことに気をつけなければいけません。

  1. (1)丁寧に説明し、任意の同意を得る

    繰り返しになりますが、リファレンスチェックを行う際には、応募者に対し、その趣旨目的を丁寧に説明して、任意の同意を得なければいけません。
    そのプロセスが不適切であれば、個人情報保護法や職業安定法等の法令に違反したとして応募者にプライバシー侵害等を理由に慰謝料請求の訴訟を起こされるリスクもないわけではありません。法令に違反した事実が広まれば、会社の信用が失墜するリスクもあります

    自分の前の職場に関する情報が調べられることに不信感を持つ応募者もいるでしょう。
    きちんと納得してもらわないまま強引に進めれば、能力が高く採用したいと思っていた人材が辞退してしまう可能性もあります。

    また応募者が在職中に転職活動をしている場合は、応募者も転職活動を今の会社には知られたくないでしょうから、同意を得るのは困難でしょう。

    いずれにせよ、応募者にリファレンスチェックを行う目的、収集する情報の範囲等を丁寧に説明し、それらを記載した書面を提示して、その書面に必ず同意してもらってから実施してください
    また、前の職場への照会も、本人の同意書を添付した上で、質問事項も採用目的に必要不可欠な事項に限定するなど注意が必要です。特に質問事項については、個人情報保護法や職業安定法等の法令の趣旨に反しないよう十分吟味しましょう。

    一般的には、書面での質問事項は、応募者の在籍歴、勤務成績、懲戒歴等の客観的項目とすべきでしょう。

    リファレンスチェックを請け負う業者もあるようですが、業者任せにせず、弁護士等の専門家からあらかじめ助言してもらうのが安心です。

  2. (2)内定前に実施する

    リファレンスチェックを行うなら、応募者に対し、採用内定を出す前に行いましょう。

    リファレンスチェックの実施のタイミングは企業によって異なりますが、内定を出す前の最終チェックとして行われるのが一般的です。採用内定後に実施して、リファレンスチェックの結果で内定を取り消すことは容易ではないからです
    一般に、採用内定が応募者に通知された場合は、労働契約が成立したと考えられており、内定取消しは、解雇と同じように厳格に扱われることになります。

    労働契約法第16条
    解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする


    他方、採用決定前であれば、企業は原則として自由に採用の可否の判断をできますし、不採用の具体的理由を開示する義務もありません。

5、まとめ

リファレンスチェックは企業にも応募者にもメリットがある場合もありますが、まだ導入は一部にとどまっています。そのためよく理解しないまま実施し、違法な対応をしてしまうリスクがあります。

ベリーベスト法律事務所 町田オフィスでは、労働事件に詳しい弁護士が企業の採用に関する困りごとの相談をお受けしております。まずはお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています