控訴したらどうなる? 控訴する前に知っておくべきことを解説
- その他
- 控訴したらどうなる
刑事事件の報道では「一審の判決を不服として『控訴』した」と表現されることがあります。
また、重大事件であるほど控訴に至る傾向は強く、たとえば平成29年に町田市で起きた乳児に対する「揺さぶり死」事件では、一審の無罪判決に対して検察側が控訴を行いました。容疑をかけられている被告人側ではなく捜査機関側が控訴した事例ですが、令和3年5月に東京高裁が控訴を棄却する判決を下しています。
報道からは「判決に不服がある」という意図と「控訴」がセットになっているという印象を抱かれるかもしれません。しかし、具体的にどんな状況があれば控訴できるのか、詳しく知っている方は少ないと思われます。
本コラムでは「控訴」について、控訴という制度の概要や控訴できる条件、控訴したらその後はどうなるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。
1、「控訴」とは?
まずは「控訴」とはどのような制度であるのか、控訴したらどうなるのかなどについて、概要を解説します。
-
(1)「控訴」の意味
日本の刑事裁判制度では「三審制」が採用されており、犯罪の容疑をかけられている被告人には、ひとつの事件について三回まで裁判を受ける権利があります。
ある判決について不服があり、さらに上級の裁判所に対して審理するよう求めることを「上訴」といいます。
そのうち、最初の裁判について不服があって上訴する手続きが「控訴」です。
一般的に、刑事事件の第一審は各地の地方裁判所やその支部で開かれるほか、一部の軽微な事件については簡易裁判所で開かれます。
たとえば、町田市を管轄するのは東京地方裁判所立川支部や町田簡易裁判所であるため、第一審が開かれるのはこのいずれかです。
一審で下された判決について不服があり控訴する場合は、さらに上級の東京高等裁判所が担当します。
なお、控訴審の判決にも不服がある場合には、最高裁判所に上訴することも可能です。
これを「上告」といいます。 -
(2)控訴に期待できること
控訴を申し立てて上級の裁判所に審理を求めることで、第一審において下された、誤った判断の見直しを求める機会が生まれることになります。
「無実であるのに容疑をかけられて、誤った事実認定で有罪判決を受けてしまった」「言い渡された量刑が重すぎる」といった場合には、控訴することで、被告人は現状よりも有利な結果が得られる可能性があるのです。 -
(3)控訴によって生じる不利益
控訴は、第一審の判決に対して不服がある被告人にとっては不利な判決を避ける機会となるため、基本的に、被告人は不利益を心配する必要はありません。
ただし、控訴を申し立てることによって刑事裁判が長引き、保釈も認められない状況では、それだけ身柄拘束を受ける期間も長くなることになります。
控訴によって懲役や禁錮の実刑判決を回避できたのなら有益だったといえるかもしれませんが、控訴審でも第一審の判決が覆らなければ、控訴に要した分の時間だけ、社会復帰がさらに遅れることになるのです。
2、控訴するための法律上の条件とは?
控訴を申し立てるためには、「刑事訴訟法」という法律が定める条件に合致している必要があります。
-
(1)絶対的控訴理由にあたる場合
刑事訴訟法第377条・第378条には、法律に違反した手続きが行われたことを理由とした「絶対的控訴理由」が掲げられています。
重大な法令違反があるので、その違反が判決に与えた影響にかかわらず控訴の理由になる、というものです。
具体的には、以下のような法令違反が絶対的控訴理由として認められます。【刑事訴訟法第377条】- 法律にしたがって判決裁判所を構成しなかった
- 法令により判決に関与できない裁判官が判決に関与した
- 審判の公開に関する規定に違反した
【刑事訴訟法第378条】- 不法に管轄または管轄権を認めた
- 不法に公訴を受理・棄却した
- 審判の請求を受けた事件を判決しなかった、または審判の請求を受けていない事件について判決した
- 判決に理由を付さなかった、または理由に食い違いがあった
-
(2)相対的控訴理由にあたる場合
刑事訴訟法には、絶対的控訴理由にあたらない場合でも裁判所の法令違反が「判決に影響を及ぼした」と認められる場合に限って控訴を認める規定があります。
これらが「相対的控訴理由」であり、具体的には以下のような法令違反が相対的控訴理由にあたる場合があります。- 訴訟手続きに法令違反があった(第379条)
- 法令の適用に誤りがあった(第380条)
- 量刑が不当であった(第381条)
- 事実の誤認があった(第382条)
実際に控訴が認められているケースの大半は、上記のうち「量刑不当」または「事実誤認」を理由としています。
3、控訴する前に知っておくべきポイント
以下では、第一審の判決に不服があり控訴を検討している方が理解しておくべき注意点を解説します。
-
(1)控訴には二つの期限がある
控訴の手続きを進める際には、二つの期限を守らなくてはなりません。
最初に訪れる期限は「控訴申立書」の提出です。
控訴申立書は、第一審の判決が言い渡された日から14日以内に提出する必要があります。
ここで注意しないといけないのが、控訴申立書の提出先です。
控訴申立書は、控訴審が開かれる高等裁判所ではなく、第一審の判決を言い渡した地方裁判所・簡易裁判所に提出しなければなりません。
次の期限は「控訴趣意書」の提出です。
控訴趣意書は、控訴の申し立てが受理されたのち、裁判所から提出期限が設定されます。
おおむね1~2か月ほどの期限が設けられますが、控訴趣意書は控訴の結果を左右する重要な書面であり内容の精査などに時間がかかるため、速やかに対応する必要があります。 -
(2)控訴したらどうなる? 申し立て後の流れ
期限内に控訴の申し立てを行うと、第一審の裁判所から高等裁判所に事件の記録が送付されます。
その後、高等裁判所からの求めに応じて控訴趣意書を提出すると、高等裁判所は控訴権の確認や必要書類の有無などの形式的な確認が行われます。
高等裁判所が控訴を認めると、控訴趣意書の提出からおよそ1か月後に控訴審の期日が設定されます。
また、控訴審には第一審と異なり被告人に出頭義務がありません。
あくまでも「第一審の判断や手続きに誤りがないか?」という点に絞って審理されるでも、高等裁判所が必要としない限り被告人不在のままでも審理が進みます。
このような形式なので、控訴審では第一審のように何度も裁判が開かれるわけではありません。
複数の裁判官が第一審の事件記録や事前に送付された控訴趣意書などをもとに審理を行い、基本的に1回のみの裁判で、しかも数十分程度の短時間で控訴審は終了することがあります。 -
(3)控訴によって刑が重くなることはない
控訴をするかどうかを検討している方は、「判決を見直すことで、第一審よりも厳しい結果になるのではないか?」という不安を抱くことになるでしょう。
もし、控訴によって返って刑が重くなってしまうリスクがあるなら、控訴に踏み切れなくなってしまうでしょう。
しかし、刑事訴訟法第402条には「原判決の刑よりも重い刑を言い渡すことはできない」と明記されています。
そのため、たとえ不利な判断が下されたとしても、第一審の判決より重くはならないのです。
これを「不利益変更禁止の原則」といいます。
ただし、この原則は被告人が控訴したときだけに適用されるものです。
検察官が控訴した場合はこの限りではないという点には注意してください。
4、控訴について弁護士がサポートできること
控訴は被告人に認められている権利であり、とくに「誤った事実認定でいわれのない有罪判決を受けた」「罪を犯したのは事実だが不当に重い量刑が言い渡された」という状況に陥った場合には、事態を打開するチャンスでもあります。
ただし、単に「無罪なのだから裁判をやり直してほしい」「もっと刑を軽くしてほしい」と主張するだけでは、控訴することはできません。
控訴は、法律の知識や解釈などが関わってくる難しい手続きであるため、弁護士のサポートは不可欠です。
-
(1)控訴の要否を法的な観点から分析できる
「控訴が可能なのか?」「控訴することで状況が良い方向に転じる可能性があるのか?」を判断するためには、刑事訴訟法が定めている控訴の理由を熟知したうえで、実際の法的手続きにおいてはどのような状況で控訴が認められているのかということについても理解しておく必要があります、
弁護士は、第一審の判決をふまえながら、「控訴できるのか」「控訴によって有利な結果を得られる可能性はあるのか」といった点を法的な観点から分析することがあります。
ただし、刑事弁護を扱っている弁護士のなかでも控訴審に対応した経験をもっている弁護士は決して多くないので、控訴審の実績を積んでいる弁護士にサポートを依頼することが大切です。 -
(2)控訴の申し立てをサポートできる
控訴には、控訴申立書や控訴趣意書の提出が必要になります。
どちらも提出期限が設けられているので、期限内に提出しなければ「決定」によって控訴が棄却されて、法廷さえ開いてもらえなくなるのです。
とくに難しいのが、控訴趣意書の作成です。
控訴趣意書には、第一審の判決にどのような法令違反があったのかを具体的に指摘・記載しなければならないので、一般の個人ではもちろん、弁護士であっても控訴審の実務経験がなければ十分な仕上がりは期待できません。
単に「控訴する」という意思さえ示せば裁判がやり直されるという制度ではないため、申し立ての際には弁護士にサポートを依頼しましょう。 -
(3)有利な判決に向けたサポートが期待できる
控訴の目的は、第一審の判決に誤りがあることを高等裁判所に認めてもらい、原判決を「破棄」させることです。
弁護士に依頼すれば、原判決を破棄して、改めて被告人にとって有利な判決を得るためのサポートを得られます。
刑事訴訟法第397条には「原判決破棄」について、絶対的控訴理由・相対的控訴理由にあたる場合と、改めて証拠を取り調べて「明らかに正義に反する」場合に認められる旨が明記されています。
たとえば、「第一審の判決後に被害者との示談が成立した」「犯人ではないことを証明する新たな証拠がみつかった」といった事情があれば、控訴することで原判決が破棄される可能性が高まるでしょう。
ただし、原判決の破棄を目指すための具体的な対応は、第一審判決後から控訴審までの間という短い期間で行う必要があります。
また、「どのような活動が有利な事情となるのか」ということを判断するためには法律の知識が必要となります。
一般の個人で対応するのは困難であるため、弁護士のサポートは不可欠となるでしょう。
5、まとめ
刑事裁判の第一審で下された判決について不服がある場合は「控訴」することで判決が見直される可能性があります。
ただし、控訴が認められるためには刑事訴訟法が定める要件に合致していなければならないうえに、控訴趣意書によって第一審の判決における法令違反を指摘する必要もあります。
法律の知識や実務経験が必要となるため、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
ご自身やご家族が刑事事件の被告人になられて、控訴するかどうか迷っている方や控訴したいがどうすればよいのかわからず困っている方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
被告人の方にとって有利な結果を得るために、控訴審への対応実績を豊富にもつ力を尽くしてサポートします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています