不当な理由で役員を解任されたときに行うべき対応と相談先
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2022年度に東京都内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は17万4985件でした。中には、解雇や解任に関する相談も寄せられていることが推測されます。
役員は、株主総会決議によって解任されることがあります。この場合、解任を拒否できないとしても、会社に対して損害賠償を請求できるかもしれません。突然の役員解任でお悩みの場合は弁護士に相談して、どのような対応をとるべきかについてアドバイスを受けましょう。
本記事では、不当な理由で役員を解任された場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。
出典:「個別労働紛争の解決制度等に関する令和4年度の施行状況を発表します」(東京労働局)
1、会社が役員を解任するための手続き
会社が役員を解任する際には、以下の手続きを行う必要があります。
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(1)臨時株主総会の招集
役員の解任は株主総会決議によるため、まずは株主総会の招集が必要です。定時株主総会において役員を解任することもできますが、一般的には臨時株主総会を招集した上で解任議案を審議します。
株主総会を招集する際には、取締役(取締役会設置会社では取締役会)が招集事項を決定した上で、公開会社では開催日の2週間前まで、非公開会社では開催日の1週間前までに、株主に対して招集通知を発送する必要があります(会社法第298条、第299条)。
招集通知には、株主総会の日時・場所・目的事項など、会社法所定の事項を記載しなければなりません。 -
(2)株主総会における解任決議
役員の解任は、株主総会の決議によって行います(会社法第339条第1項)。
解任決議は、以下の定足数および賛成数の要件をいずれも満たした場合に成立し、決議成立の時点で役員は解任されます(同法第341条)。① 定足数
議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合は、その割合以上)
② 賛成数
出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合は、その割合以上) -
(3)役員退任の登記
役員の氏名(または名称)は、株式会社の登記事項とされています(会社法第911条第3項第13号、第16号、第17号)。代表取締役については、氏名および住所の登記が必要です(同項第14号)。
役員が解任された場合は、登記事項について変更が生じたことになるので、変更登記手続きを行わなければなりません。変更登記手続きの期限は、解任決議の日から2週間以内です(同法第915条第1項)。
2、会社の役員は解任を拒否できるのか?
株主総会決議によって解任された役員は、原則としてその決議に従って退任することになります。
ただし、解任決議が不存在であり、または取り消し得る場合は、解任を拒否して争うことも考えられます。また、解任を拒否できない場合であっても、会社に対して損害賠償を請求できることが多いです。
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(1)解任決議が不存在または取り消し得る場合は拒否できる
解任決議が存在しない場合は、株主総会決議不存在確認の訴えを提起して争うことができます(会社法第830条第1項)。
解任決議が存在しないといえる場合の代表例は、株主に対して株主総会の開催が通知されず、オーナー経営者の独断で株主総会決議が行われたかのように仮装された場合などです。
また、株主総会の招集の手続きまたは決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正なときは、解任決議の日から3か月以内に、訴えをもって当該決議の取り消しを請求できます(同法第831条第1項第1号)。(例)
① 会社法に従った招集手続きが行われなかった場合
- 招集通知の記載事項の不備
- 招集期間の不足
- 一部の株主に対する招集通知の不送付
② 解任決議が会社法上の成立要件を満たしていない場合
- 定足数の不足
- 不適切な賛否の集計方法
③ 不公正な形で株主総会が開催された場合
- 予定開会時刻からの大幅な遅延
- 出席困難な時刻または場所における開催
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(2)解任を拒否できない場合でも、損害賠償を請求できることがある
株主総会決議によって解任された役員は、解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できます(会社法第339条第2項)。
解任の正当な理由として認められるのは、役員としての職務執行を委ねられないと判断することもやむを得ない客観的な事情に限られます。
具体的には、以下のような事情が解任の正当な理由になり得ます。これらの事情については、損害賠償責任を否認する会社側において立証しなければなりません。- ① 職務執行上の法令・定款違反
- ② 心身の故障(病気、ケガ)
- ③ 経営能力の著しい欠如
これに対して、単に株主と取締役の経営方針が異なるだけでは、解任の正当な理由は認められないと解されています。たとえば、オーナー経営者と反目した結果として役員を解任された場合には、会社に対して損害賠償を請求できる可能性が高いです。
3、使用人兼役員の解任には、解雇に関する規制も適用される
役員が使用人(労働者)としての立場も兼ねている場合、完全に解任して会社から追い出すためには、役員の解任決議に加えて解雇も行わなければなりません。
使用人兼役員の解雇についても、通常の労働者の解雇と同様に、解雇に関する厳しい規制が適用されます。会社によって不当解雇された場合には、解雇の無効などを主張して争いましょう。
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(1)使用人兼役員を解雇するための要件
使用人兼役員を解雇するためには、通常の労働者と同様に、以下の要件をいずれも満たす必要があります。
① 解雇の種類に応じた解雇原因が存在すること
- 懲戒解雇:就業規則上の懲戒事由に該当すること
- 整理解雇:4要件(整理解雇の必要性・解雇回避努力義務の履行・被解雇者選定の合理性・手続きの妥当性)を総合的に判断
- 普通解雇:労働契約または就業規則上の解雇事由に該当すること
② 解雇権の濫用に当たらないこと(労働契約法第16条) -
(2)使用人兼役員の解雇が認められないケースの例
解雇原因が存在しない場合や、解雇権の濫用に当たる場合には、使用人兼役員の解雇は認められません。
たとえば以下のようなケースでは、使用人兼役員の解雇は認められない可能性が高いと考えられます。① 解雇原因が存在しない場合の例
- 懲戒事由に該当することを理由に懲戒解雇をしたが、実際には懲戒事由に当たる行為はなされていなかった
- 会社経営はきわめて順調であるにもかかわらず、整理解雇をした
- 健康上の障害を理由に普通解雇をしたが、実際には軽い病気にかかったに過ぎず、すぐに回復して執務ができる状態だった
② 解雇権の濫用に当たる場合の例
- 軽微な就業規則違反を1度犯したことだけを理由に、懲戒解雇をした
- 就業規則違反の行為を認めた後、何らの改善指導を行わないまま懲戒解雇をした
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(3)使用人兼役員が不当解雇された場合の対処法
使用人兼役員が会社に不当解雇された場合は、解雇の無効を主張して争いましょう。仮に退職を受け入れるとしても、その代償として解決金の支払いを求めることも考えられます。
また、解雇によって職場を離れて以降の期間については、対応する未払賃金の請求も可能です。
解雇の不当性は、会社との交渉・労働審判・訴訟などの手続きを通じて主張します。弁護士にご依頼いただければ、依頼者の代理人としてこれらの手続きの対応を代行いたします。
4、役員が解任されたら弁護士に相談を
会社から解任されたことについて不満がある役員の方は、弁護士に相談することをおすすめします。
不当な役員の解任については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性が高いです。また、役員が使用人の立場を兼ねていた場合は、不当解雇の無効を主張することも考えられます。
損害賠償請求などを成功させるためには、綿密な法的検討が必要不可欠です。弁護士に相談すれば、事実関係を整理した上で、会社に対してどのような請求・主張を行うべきかについてアドバイスが受けられます。
会社との示談交渉や法的手続きへの対応についても、弁護士にワンストップで任せることができます。弁護士が法的な根拠に基づき、臨機応変に対応することで、解任について適正な補償を受けられる可能性が高まります。
会社によって不本意に解任されてしまった役員の方は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
5、まとめ
役員が不本意な形で解任された場合は、法的な手段によって会社に対抗しましょう。具体的には、解任決議の不存在確認または取り消しを求める訴訟の提起や、損害賠償請求が考えられます。使用人兼役員である場合は、不当解雇の無効を主張することも可能です。
これらの法的手段によって会社と争う際には、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は法的な根拠に基づく請求・主張を行い、解任によって被った損害を回復できるようにサポートいたします。
ベリーベスト法律事務所 町田オフィスは、会社に解任された役員の方からのご相談を随時受け付けております。解任に関して不満をお持ちの方や、会社との間でトラブルになっている方は、当事務所にご相談ください。
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