勤務間インターバル制度の努力義務とは?導入するメリットや方法は?
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過労死が社会問題化して久しく、労働者に違法な時間外労働を課すことに対しては年々厳しい目が注がれるようになっています。しかし、それでも労働者に違法な時間外労働を課す企業は後を絶ちません。
そのような中、政府が主導する「働き方改革」のもと、2019年4月から「勤務間インターバル制度」が新たに導入されました。現在、この制度は他の労働関連法令と異なり罰則付きで企業に遵守を義務付けるものではなく、「努力義務」の位置づけです。
そもそも勤務間インターバル制度とはどのような制度なのでしょうか? そして努力義務とは、どのように解釈すればよいのでしょうか? この勤務間インターバル制度の努力義務について、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。
1、勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度とは、企業が労働者の終業時間から始業時間までの間に一定の休息時間(インターバル)を設定することで、労働者の十分な睡眠時間やワーク・ライフ・バランスの確保、ひいては労働者の健康な生活の確保を目指すものです。たとえば、残業で終業時間が遅くなった場合、時差勤務としてその分翌日の始業時間を遅らせる運用が考えられます。
もともとEU諸国では、勤務間インターバル制度は以前から導入されていました。EUの労働時間指令第3条では、加盟国は、すべての労働者に、1日の休憩時間について、少なくとも24時間ごとに連続11時間の休息時間を確保するための必要な措置を講じなければならない、という内容で規定されています。また、ドイツではすでに1938年からこの制度が導入されていたのです。
一方で、以前から労働者の慢性的な長時間労働が問題となっていた日本では、2018年6月29日に成立した働き方改革関連法に基づき、2019年4月1日から「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が施行されました。これにより、ドイツから遅れること約80年で勤務間インターバル制度が「企業の努力義務」として制定されることになったのです。
なお、現時点で具体的な勤務間インターバルの時間や対象となる労働者など、企業が制度を運用する方法は法律で定められているわけではありません。すでに導入した企業の実績をみると、EUの労働時間指令第3条に倣っているのか、11時間前後をインターバルの時間として規定している企業が多いようです。
2、努力義務とはどういうことか?
たとえば、労働基準法の条文をみてみると、「~しなければならない」と義務を課す規定が多いです。そして、通常はこの義務を履行させるために懲役刑や罰金刑等の罰則規定が設けられています。つまり、義務を課されている者は、懲役刑や罰金刑等のペナルティを避けるために、法律の定める義務を履行しようと行動することになります。これは、法律を制定した国としては、ペナルティを通じて、法律で保護された利益を遵守させようとしているのです。
一方で、努力義務の規定には通常は懲役刑や罰金刑等の罰則規定が設けられておらず、努力義務を履行しなくても、法的なペナルティはありません。条文上は、「~するように努めなければならない」と定められていることが多いです。
上述したように、勤務間インターバルも企業に対して努力義務を課しているだけですので、勤務間インターバルを導入しなくても企業は罰則等を科されることはありません。そのため、勤務間インターバルの導入は企業の任意になります。
3、勤務間インターバルの導入企業は増える?
労働基準法改正に基づき2019年4月に施行された「高度プロフェショナル制度」では、対象となる労働者の健康管理措置の選択的措置のひとつとして、「11時間以上の勤務間インターバルの確保」を定めています。また、労働基準法第36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)の締結においても、健康・福祉確保措置の内容のひとつとして勤務間インターバルの確保が定められています。
このように、勤務間インターバルは努力義務とはいいながらも労働法の各種制度に組み込まれています。そのため、勤務間インターバル制度を導入する企業は今後ますます増える可能性があります。
4、制度を導入するメリットとは?
勤務間インターバル制度の導入によって、企業には様々なメリットが期待できます。
たとえば、十分な休息時間が確保することで過労死などの労働災害の防止やワーク・ライフ・バランスの確保により労働者の満足度が向上することで、離職率の低下が期待できます。また、勤務間インターバル制度の導入によって労働者の就業時間が制限されることにより「ダラダラ残業」の抑止につながり、結果として労働者一人あたりの労働生産性向上と残業代削減が期待できます。
また、中小企業事業主が勤務間インターバル制度を導入すると国から助成金が支給される場合があります。
この他にも、労働者一人あたりの就業時間を制限することでワークシェアリングなどの雇用対策の実現、勤務間インターバル制度導入による企業イメージの向上など、勤務間インターバル制度の導入は様々なメリットが期待できます。
5、導入する方法について
以下では、勤務間インターバル制度を導入するときに必要と考えられるステップについてご紹介します。
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(1)残業時間の実態を把握する
勤務間インターバル制度の導入を検討する際には、どの部署で、どの業務に従事している労働者が、どのくらいの残業をしているか把握しておく必要があります。特に繁忙期や緊急時などの残業時間は、勤務間インターバル制度を導入するときの例外規定を設けることを検討する要素となりますので、しっかりと把握しておいてください。
できる限り残業時間の実態を正確に把握しておくことで、勤務間インターバル制度を導入しても企業の業務に影響が出ないように、あらかじめ業務内容の見直しや人員シフトをしておくなどの措置を講じておくことができます。 -
(2)自社の勤務間インターバル制度を設計する
勤務間インターバル制度を設計するときは、以下の要素を考慮する必要があります。
- 勤務間インターバル制度の対象者、および適用除外の業務の有無
- インターバル時間を何時間とするか
- 前日の残業が長時間に及んだときの、翌日の始業時間の取り扱い
- 制度に従って、労働者がしっかりと休息時間を確保できているか管理する方法
- 繁忙期など、例外規定の有無
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(3)就業規則や労使協定、雇用契約書などを見直す
勤務間インターバル制度を導入するときは、労働条件のひとつとして就業規則や労使協定、あるいは雇用契約書などに定めることになります。したがって、既存の就業規則や雇用契約書などの改訂が必要になります。
勤務間インターバル制度の導入に際して既存の就業規則や雇用契約書を見直すときは、弁護士に依頼することをおすすめします。勤務間インターバル制度に知見をもつ弁護士であれば、制度の実態に即した適法な内容の就業規則や雇用契約書の変更覚書などの作成を依頼することができます。勤務間インターバル制度の導入に限った話ではないのですが、就業規則や雇用契約書などの見直しにおいてリーガルリスクを最小化することを目指すのであれば、弁護士に依頼することを検討してみてください。 -
(4)労使間で協議する
いくら勤務間インターバル制度が労働者にとってメリットのある制度とはいっても、就業規則や労使協定などに定められた既存の労働条件は、企業と労働者との間の合意に基づき成立したものですから、これを企業側から一方的に変更することはできません。労働契約法第8条および第10条但書、および労働基準法第90条の規定により、労働条件を変更することには企業と労働者が協議し合意すること必要です。
なお、就業規則の変更について労使間の協議が成立したときは、変更後の就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出ること、社内イントラなど労働者に周知しやすい場所へ告示することを忘れないようにしてください。 -
(5)必要に応じて制度や人員配置を見直す
勤務間インターバル制度を導入したら、テストランをすることで制度が実際に機能しているのかをチェックしましょう。
勤務間インターバル制度の導入により業務が回らないなどの弊害が生じているのであれば、適正な人員配置やインターバル時間の見直しなどを適宜行ってください。
また、制度の趣旨を理解せず「ダラダラ残業」を続ける労働者やそれを許容する管理職に対しては、適切な指導も必要です。
6、まとめ
勤務間インターバル制度の努力義務は、導入されてから間もない制度です。もし勤務間インターバル制度そのものや就業規則や雇用契約書などの改訂におけるプロセスでご不明な点があれば、ぜひ弁護士にご相談ください。適法な勤務間インターバル制度の導入に向けて、法的な側面から適切なアドバイスを行います。
また、ベリーベスト法律事務所ではワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しています。もちろん、勤務間インターバル制度など労働関連にかぎらず、幅広い範囲でご相談を承ることが可能です。
勤務間インターバル制度など労働関連に関するご相談は、ぜひベリーベスト法律事務所 町田オフィスまでお気軽にご依頼ください。あなたの会社のために、ベストを尽くします。
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