損害賠償請求をしたい! 弁護士が泣き寝入りしないための方法を解説
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町田市立中学などに所属していた教師が、平成19年3月に行われた卒業式で国歌斉唱を行う際に起立しなかったことを理由に停職処分を受けたことを不当として、教育委員会を相手に処分の取り消しと損害賠償請求を行った裁判がありました。長らく争った結果、平成28年5月に、各懲戒処分の取り消しと慰謝料の請求が認められる結果が出ています。
他人からの犯罪行為や不法行為では、命や身体の危険の他にも精神的な苦痛や、日常生活への支障など多大な損害を受けます。このような場合、日本の法律では金銭の賠償によって、いくばくかの被害の回復をはかることになっています。それが、損害賠償請求です。具体的には、刑事事件の被害に遭ったときはもちろん、離婚や婚約破棄などの民事トラブル、交通事故など、幅広く対象となります。
しかし、冒頭の事件のように不当な扱いを受けたとき、どのように損害賠償請求を行えばいいのかを知っている方は少ないでしょう。本コラムでは、損害賠償請求の要件や手続きの流れなどを、町田オフィスの弁護士が解説します。
1、損害賠償請求とはなにか
損害賠償請求とは、相手の行為によって損害を負ったときに、その損害を金銭に換算評価して賠償を求めることです。
用語だけなら誰もがニュースなどで耳にしたことがあるかと思いますが、実際にどのような場合に用いられるのか、見ていきましょう。
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(1)債務不履行に基づく損害賠償請求
民法第415条では
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
と定めています。
債務者が債務の本旨に従った履行をしないことを「債務不履行」と呼びます。「債務」という言葉から、単純に「借金」をイメージする方も多いでしょうが、ここで登場する「債務」とは、約束をした内容を果たさないことをいいます。
債務者が借金を返済するという債務を履行しない場合はもちろん、ある商品を購入した買い主に、お金を受け取ったにもかかわらず品物を引き渡さないといった契約の不履行も、債務不履行となります。そこで、債権者は債務者に対し、それによって生じた損害賠償を請求することになります。 -
(2)不法行為に基づく損害賠償請求
民法第709条には
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
と定めています。
ここでいう「他人の権利または法律上保護される利益を侵害」する違法な行為のことを「不法行為」といいます。この法律を根拠に、当事者間に約束事がない場合であっても、不法行為をされたことによって、被害を受けた人は損害賠償請求をすることになります。
2、損害賠償請求ができるケースとは
前述したように、債務不履行や他人からの不法行為があった場合には、損害賠償請求が可能となります。
しかし、必ずしも常にそれが可能なわけではありません。ここでは、具体的にどのようなケースで損害賠償請求ができるのか、できない場合も合わせて解説していきます。
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(1)損害賠償を請求できるケース
損害賠償を請求できるケースは、端的にいえば「債務不履行」又は「不法行為」に「よって」損害が発生している場合を指します。これを「因果関係」といいます。
- 貸金を返済してくれない。
- 顔面を殴られて怪我をしたので、手当のために病院を受診し、治療費がかかった。
これらのケースでは、直接的に債務不履行や不法行為によって生じた損害の結果なので損害賠償請求が可能です。
なお、下記のようなケースではどうなるでしょうか。- 貸金を返済してもらえなかったので、自分も生活のために借金をして余計な利息を支払った
- 足を蹴られて骨折し、数か月間仕事を休んだ
これらのケースでは、全ての損害を債務不履行や不法行為を原因として直接の損害と言えるかどうか、判断が分かれうる内容となります。不法行為や債務不履行を原因として発生した損害のなかでも、無制限に全てが認められるわけではなく、行為と結果の間に相当因果関係がある場合、つまり、そのような行為があれば、通常発生する損害であると一般的に考えられる損害については、損害賠償を請求することができます。
詳細は個別事案によりますので、専門家にご相談ください。 -
(2)損害賠償を請求できないケース
他人の行為によって損害を受けた場合でも、損害賠償を請求できないケースがあります。以下、どのようなケースが当てはまるか見ていきましょう。
●自然災害などの不可抗力
債務不履行において損害賠償を請求できないケースを紹介します。
たとえば、期日までに米100俵を納品するという契約だったのに、納期直前に仕入れ先の地方で大規模な災害が発生し、交通ルートがすべて遮断されてしまったなどの不可抗力があったとします。この場合、契約が履行されなくても債務不履行とは考えられず、債権者は債務者に対して損害賠償を請求することはできません。
●故意または過失がない場合
不法行為に対する損害賠償であれば「故意または過失」がない限り、請求はできません。
たとえば、夫に不倫をされた妻の場合、夫婦生活を破綻させられた、精神的損害を受けたなどの理由で、夫の不倫相手に慰謝料を内容とする損害賠償請求をすることができます。しかし、不法行為には「故意または過失」が必要です。配偶者が婚姻の事実を隠して不倫していたケースなどでは、不倫の相手方には故意も過失も認められない場合があります。このケースでは、不倫の相手方に対しては損害賠償を請求することができません。
不法行為・債務不履行のいずれにおいても、不可抗力が原因であったり、発生を予見することが困難であったりするような損害については、損害賠償を請求することはできないのです。
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(3)時効に注意
損害賠償請求権には時効が存在します。
不法行為による損害を受けた場合は3年、債務不履行の場合は債務の請求から10年を経過してしまうと、時効が完成し、請求権を失ってしまいます。損害が発生した際には早期に賠償を求めるべきでしょう。
3、損害賠償請求の手続き
「損害賠償を請求する」と聞くと、多くの方が「裁判」を起こして法廷で意見を争わせ、有利な判決を勝ち取るというイメージを抱くでしょう。ところが、実際に損害賠償を請求する際には段階的に手続きの方法を変えていくことになりますので、一連の流れを見ていきましょう。
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(1)交渉
まず、損害賠償を請求したい相手との「交渉」を行います。わかりやすい言葉に置き換えれば「示談」です。
こちら側が要求したい内容を原則としては文書(例外的に口頭)で伝えて、相手の意思を確認し、書面で合意をした上で、賠償金の支払いを受けます。この段階では「損害賠償請求をしている」という感覚が薄いかもしれませんが、当事者間の交渉でトラブルを収めることも、立派な損害賠償請求なのです。 -
(2)調停
当事者間で話がまとまらなかった場合には法的手続きを取らざるを得ませんが、法的措置の手段のひとつとして、調停手続があります。
調停とは裁判所における手続きで、裁判所の調停機関が当事者の間に入って話し合うことで、適正で妥当な解決をはかる制度のことです。調停の場で決定した事項については判決文と同じ効力を持つ「調停調書」が作成されます。ここで決定した事項を守らなければ強制執行などの手続きにより差し押さえ等を行うことが可能になります。
もっとも、調停は話し合いが前提ですので、第三者が間に入っても話がまとまらなければ、解決することはできません。 -
(3)訴訟
法的措置のひとつの手段として「訴訟」を起こすことが考えられます。多くの方が抱く「損害賠償請求」のイメージはここになるでしょう。実際に、損害賠償請求の場合は、話がまとまらなかった際には、調停手続よりも訴訟手続きを行うケースの方が多いです。
裁判所に訴状を提出し、法廷において損害の責任の所在や賠償額を決定します。訴訟によって導き出された判決には法的な強制力があります。相手には決定した賠償額を支払う義務が生じ、これに従わない場合は強制執行による差し押さえなどによって、財産上の被害を回復させることができます。
4、損害賠償請求を弁護士に依頼するメリット
損害賠償を請求し、相手に対してスムーズに要求を伝えて応えてもらうには、弁護士に相談してサポートを得るのが得策でしょう。以下に、弁護士のサポートにどのようなメリットがあるのか、紹介していきます。
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(1)法的な妥当性を判断してもらえる
損害賠償を請求するにあたっては、まず「自分の請求が正当なものなのか」を判断する必要があります。
先ほど説明したとおり、実際には損害が生じていたとしても、不可抗力などが原因で相手に賠償を請求できないケースがあります。専門的な見地からケースを分析してもらい、実際に損害賠償を請求できる内容なのかを判断してもらうことで、不要な争いや時間の無駄を省くことができます。 -
(2)手続きを任せられる
弁護士に依頼することで、複雑な手続きを任せられるというメリットを享受できます。相手との交渉に始まり、調停や訴訟への出席など、損害賠償請求には多大な労力が必要になります。
相手と会って交渉するという心理的な苦痛も、弁護士がいれば避けることができます。 -
(3)早期解決と有利な結果を期待できる
弁護士は専門知識と経験を有しているので、迅速な手続きのもと、有利な条件で損害賠償請求を実現できる可能性があります。
損害賠償請求の成否は、いかに賠償額を多く勝ち取ることができるかに尽きるでしょう。素人の個人的な交渉では、適切と考えられる賠償額を減額されてしまったり、あるいは賠償を断られたりすることもあり、被った損害を回復させることができない場合もありえます。
しかし、弁護士に依頼すれば、相手の態度が変わることもあり、自己に有利な証拠をそろえたりすることで、最大限の賠償を勝ち取ることが期待できます。損害賠償請求でより有利な結果を得たいと考えるのであれば、弁護士に依頼するのが最善策だといえます。
5、まとめ
この記事では、何らかのトラブルで損害を被り、その損害を賠償してもらいたいというお悩みを抱えている方のために「損害賠償請求」の種類や手続き方法について紹介しました。
損害賠償請求は自分で行うことも可能ですが、最善の結果を得たいのであれば、弁護士に依頼するのが賢明です。弁護士に一任することで、無駄な労力や手間を省くことができるうえに、最善の結果を得ることが期待できます。
ベリーベスト法律事務所 町田オフィスでは、さまざまなトラブルで発生した損害賠償請求事件の解決実績が豊富な弁護士が、みなさんのお悩みを解消するために善処いたします。損害賠償請求についてご不明なことなどがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています