近隣からの悪臭・異臭トラブルの法的対処法を弁護士が解説

2021年06月14日
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近隣からの悪臭・異臭トラブルの法的対処法を弁護士が解説

焼肉店やラーメン店からの独特の臭い、工場からの異臭などが、洗濯物にうつったり、部屋に充満したりすると、そこで生活や仕事をするのが嫌になってきてしまうことでしょう。体や心に不調を感じる方もいるかもしれません。

それではこういった悪臭トラブルは、法的に解決できるのでしょうか?どこに相談すればいいのでしょうか?今回は悪臭をめぐるお悩みの対処法を解説します。

1、多発する悪臭をめぐるトラブル

悪臭にはさまざまな原因があります。環境省では毎年、全国の悪臭に関する調査を実施して結果を公表しています。まずはその内容から、どういったトラブルが多いのかを確認してみましょう。

  1. (1)悪臭に関する苦情は1万2000件以上

    環境省の調査によると、平成30年度に全国の自治体が受けた悪臭に関する苦情相談件数は1万2573件でした。
    平成15年度ピーク時の2万4507件に比べると約半分ですが、前年度より548件増加しています。

    苦情件数が多かった都道府県は以下の通りで、人口が多い件ほど苦情が多い傾向にあります。

    都道府県 苦情相談件数
    東京都 1373件
    神奈川県 1287件
    愛知県 1207件


    一方で人口100万人当たりの件数では、次のように順位が変わります。

    都道府県 苦情相談件数
    大分県 172件
    愛知県 160件
    鳥取県 150件
    沖縄県 150件
  2. (2)店や近隣住宅からの苦情が多い

    苦情につながった悪臭の発生源は、以下のようになっています。

    野外焼却 25.6%
    サービス業・その他 17.1%
    個人住宅・アパート・寮 11.3%
    畜産農業 8.7%
    その他の製造工場 7.6%


    内訳をみてみると「サービス業・その他」に関する苦情2153件のうち「飲食店」が最も多い890件、次いで「自動車修理工場」130件、「食料品店」88件でした(「その他」除く)。
    また「個人住宅・アパート・寮」は1424件でした。

    この結果から野外焼却以外では、飲食店や住宅・生活関連の臭いに対する苦情が多い傾向にあるとわかります

  3. (3)悪臭に関するよくあるトラブル

    悪臭をめぐっては、次のようなトラブルが頻発しています。

    • マンションの隣人がベランダでタバコを吸っていて、臭いが部屋に入る
    • 食料品店のゴミ置き場から異臭がする
    • 焼肉店の煙や臭いがキツい
    • 近くの工場の排水から嫌な臭いがする
    • 近所の豚舎の臭いが不快だ など


    悪臭は騒音などと同じように近隣トラブルの原因となることが多く、当事者間で言い争いになったり暴力問題に発展したりすることも珍しくありません。
    なかなか状況が改善されず、被害が拡大すれば裁判になるケースもあります

2、悪臭防止法とは

ひどい悪臭が続けば日常生活にも支障がでかねません。そこで特に悪臭の影響が大きい地域については、「悪臭防止法」により悪臭に関するさまざまな規制が設けられています。ここではその内容を具体的にご説明します。

  1. (1)悪臭防止法とは

    「悪臭防止法」とは、規制区域内で行われる工場などの事業活動によって発生する悪臭を規制する法律です。

    規制区域とは住宅密集地など悪臭防止の必要性がある地域で、都道府県知事や市長が指定します。

    区域内にある事業所は工場でも飲食店でも、業種を問わず規制の対象です。
    ただし一般の住宅、個人は対象外です。つまり隣家からの臭いについては悪臭防止法では対処できません

  2. (2)悪臭防止法が規制する臭いの種類と測定方法

    悪臭防止法では次の2つの規制基準があり、都道府県や市区町村によってどちらが採用されているかは異なります。

    ●特定悪臭物質濃度:
    不快な臭いの原因となっている物質(アンモニアや硫化水素など22種類)の濃度による規制

    ●臭気指数:
    人が感じる臭いの強さを数値化した「臭気指数」による規制


    「特定悪臭物質」は、機器を使って空気中の特定物質の濃度を測り算出します。
    物質の種類にごとに「敷地境界線」「気体排出口」「排出水」における基準があります。

    「臭気指数」は対象となる空気を臭いのない空気で薄めて、臭いが感じられなくなるまで薄めた時点の希釈倍数をもとに算出します。「三点比較式臭袋法」という方法が採用されています。

    規制基準値は自治体ごとに異なります。

  3. (3)罰則

    近隣住民から悪臭に関する相談があった場合、市町村長は事業者に報告を求めたり立ち入り検査をしたりできます。
    これに対して虚偽の報告や検査拒否をした場合は「30万円以下の罰金」が課される可能性があります(悪臭防止法第28条)

    環境省の調査によると平成30年度は全国で立ち入り検査が1604件、報告の徴収が369件行われました。

    また規制基準を超えた悪臭により住民が被害を受けている場合には、市町村長は悪臭の測定を行ったうえで、当該の企業や事業者に改善勧告・改善命令を出せます(悪臭防止法第8条)。

    事業者が命令に従わない場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が課される可能性があります(悪臭防止法第24条)。

3、近隣からの悪臭に対する解決法

近隣の飲食店や住宅からの悪臭に耐えていると、生活にさまざまな影響が生じるでしょう。次のような相談窓口や弁護士に相談し、解決を目指しましょう。

  1. (1)悪臭の相談先

    悪臭被害は主に次のような相談先があります。

    ①マンション管理会社や自治会
    隣家や飲食店などからの悪臭は、直接苦情を言うとトラブルになりやすい傾向があります。
    そこでまずマンションの管理会社や物件の大家などに相談してみましょう。

    管理会社や大家は代わりに相手に苦情を伝えたり、掲示板に張り紙をしたりするなどの対策をとってくれる可能性があります

    飲食店や工場などからの悪臭の場合、ほかにも近隣で同じように悩んでいる方がいるかもしれません。
    その場合、自治会に相談することでほかの被害者と協力して対応できたり、自治会が代表となって交渉をしたりしてくれる可能性があります。

    ②公害苦情相談窓口
    都道府県や市区町村には、公害に関する相談窓口が設置されています。

    相談内容によっては現地調査や聞き取りをして事実関係を確認し、必要に応じて相手に改善指導を行ってくれます。
    悪臭のほか、大気汚染や水質汚染、騒音など7分野の相談を受け付けています

    ③警察
    悪臭をめぐって隣人や事業者などと争いになり、脅迫や暴力を受けた場合は最寄りの警察署に相談しましょう。
    身の危険を感じた場合には、ためらわずにすぐ通報しましょう

  2. (2)公害紛争処理制度の活用も

    公害苦情相談窓口に相談しても解決できない場合には、「公害紛争処理制度」が利用できます。

    公害紛争処理制度とは、当事者間が激しく争っている、損害賠償問題に発展した、紛争の原因に食い違いがあるといった場合に、国の公害等調整委員会または都道府県の公害審査会の仲介により解決を図る仕組みです

    解決手段には話し合いによる合意を目指す「調停」、裁定委員会が法律的判断を下す「裁定」、当事者間の自主的解決をサポートする「あっせん」、仲裁委員会が判断を下す「仲裁」の4つがあります。

    裁判に比べて手数料が安く、短期間で対応できるため、利用しやすい制度です。

  3. (3)法的対応も視野に入れて弁護士に相談しましょう

    店舗や工場からのひどい悪臭が長期間続いていたり、行政に相談しても改善されなかったりした場合、また悪臭防止法の規制対象外である個人による悪臭に悩まされている場合は、弁護士への相談もひとつの手段です。

    悪臭を出している個人や店との直接の交渉はトラブルになる恐れがありますが、弁護士に依頼すれば交渉を代行することが可能です
    相手によっては、行政などからの連絡に応じない場合でも、弁護士がでることで態度が変わり、話を聞いてくれる可能性があります。

    悪臭問題では相手が近隣住民である場合、大きな争いになればその後の地域での生活がしづらくなる心配もあるため、話し合いでの解決が最優先です。

    ですがそれでも相手が対応しない、状況が改善されない場合には、調停や裁判といった法的手続きを取ることも考えられます。

    裁判では、悪臭発生行為の差し止めや被害に対する損害賠償を求めることになるでしょう。
    主張が認められるかどうかは、悪臭被害が「受忍限度」を超えているかどうかが大きな判断基準となりますので、悪臭の測定を行う専門家や専門業者に依頼して悪臭を測定するなど、客観的な証拠の収集が重要になってきます。

    法的手続きでの解決を図る場合、悪臭をめぐる裁判は非常に手間がかかるため、弁護士に相談されることをおすすめします。

4、まとめ

日々悪臭に苦しめられていると、そこで生活していくのが嫌になったり精神的に追い込まれたりすることもあるため、できるだけ早く解決する必要があります。ただし当事者同士ではトラブルになることも多いので、まずはベリーベスト法律事務所 町田オフィスにご相談ください。弁護士が親身になってお話をお聞きし、解決に向けてできる限りの対応をいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています