家族経営をしている際の離婚で注意すべき3つのポイントについて解説

2021年06月21日
  • 離婚
  • 家族経営
  • 離婚
家族経営をしている際の離婚で注意すべき3つのポイントについて解説

日本では父親が社長、母親が取締役、子どもが課長といった「家族経営」の事業は少なくありません。家族経営には意思決定のスピードが速いなど運営上のメリットがありますが、その一方で離婚した際には配偶者の立場や財産分与が問題になりがちです。

町田市では、令和元年に714組が離婚しています。中には一緒に事業をしてきた夫婦が離婚したケースもあるでしょう。そこで今回は家族経営の離婚の際に、知っておきたいことや注意すべき点についてポイントを押さえてご紹介します。

1、会社を経営する夫婦の離婚はトラブルになりやすい

家族で会社を経営している夫婦の離婚は、非常にトラブルになりやすい傾向があります。
その一番の理由は、離婚が「家族」だけでなく「会社の経営」の問題でもあるという点です。

夫婦で会社の経営に携わっていて役員や社員である場合、離婚後もビジネスパートナーとして経営に携わるのか、どちらかが会社を去るのかを考えなければいけません

また財産分与では、分与の割合や会社の資産・株式の扱いが問題になるでしょう。

意見の相違が大きくトラブルが長引けば、「お家騒動」に発展するなど、会社の経営の不安要素にもなりかねません。

そのため夫婦で事業を営んでいる場合には、離婚に際して「家族」と「会社」の両方の事情を考慮して手続きを進めていかなければいけません。

2、家族経営の離婚は財産分与に問題

家族経営の離婚でよくある疑問が「会社の財産も分与しなければいけないのか」という点です。そこでまずは財産分与の対象財産や分与の割合について、確認していきましょう。

  1. (1)財産分与割合は2分の1とは限らない

    夫婦が離婚する場合、財産分与の割合は原則として2分の1です。ただし会社経営者の離婚では、この原則通りではないことが多い傾向にあります。

    一般的には夫が会社員の場合、妻が専業主婦でも夫を支え稼ぎに貢献したという点から、財産分与の割合は2分の1です。
    財産分与の対象となるのは、預貯金や持ち家、家電、自動車など結婚後に夫婦で気づいた財産すべてです。

    他方で片方が経営者であった場合、その手腕によって会社の売り上げが急拡大したり、資産が増えたりした事情があれば、財産が増えたことへの寄与度が大きいとして経営者の取り分を多くすることがあります

    このように分与の割合に差が出るケースは経営者以外にも医者など収入が多い職業で見られます。

    家族経営の場合にも、会社や財産との関係を考慮して、2分の1以外の分与の割合も検討してみましょう。

  2. (2)会社の財産は原則として分与の対象外

    夫婦で会社を経営していたとしても、会社の資産は財産分与の対象外です。

    離婚での財産分与の対象となるのは「結婚後に夫婦が共同で築いた財産」です
    会社の財産は会社のものであって夫婦のものではないため、分与はできません。

    ただし事業が小規模の場合、会社の財産と個人の財産が事実上一体となっていることが少なくありません。
    たとえば会社名義で車を購入したものの、ほぼ100%私用で使っているといったケースです。

    その場合には会社名義であっても事実上夫婦の財産とみなされ、分与の対象になる可能性があります。
    これはケースバイケースで判断が難しいため、迷ったら弁護士に相談しましょう。

    なお会社名義であれば分与から外れるからといって、「妻には財産を渡したくない」などの理由から夫婦の共同財産を離婚前に勝手に会社名義に変更したといった場合、「財産隠し」をしたとして分与の対象になる可能性があります

  3. (3)会社の株式の扱いは慎重に

    家族経営の会社では、夫と妻がそれぞれ会社の株式を保有していることがあります。
    その場合、離婚し事業を離れた方が会社の株式を突然大量に売却すると、会社の経営が不安定になる恐れがあります。

    そのため配偶者が大量の株式を保有している場合は、買い取るなどの対応が必要です

    また結婚前から持っている会社の株式は財産分与の対象外ですが、結婚後に手にした株式は夫婦が共同で築いた財産であり、分与の対象です。

    そのため結婚後に事業を起こした場合、財産分与として会社の株式を相手に渡さなければいけなくなるかもしれません。こちらも同様に経営の不安要素になるでしょう。
    株式の代わりに同額の現金を分与するなど、株式の分与には十分注意してください。

3、家族経営の離婚は役員の解任に問題

家族経営の会社では社長が夫、妻が取締役というケースは少なくありません。実際に業務はしていなくても役員として登記しているということもあります。その場合、離婚の際は会社を辞めてもらえるのでしょうか?

  1. (1)役員解任には株主総会の決議が必要

    中小企業であっても非公開会社であっても、取締役などの役員を任期途中で解任する場合には「株主総会の決議」が必要です。

    会社法第339条1項では次のように定められています。

    役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる


    配偶者を役員から外したい場合には、まずは株主総会で承認を得ましょう
    なお役員の選任・解任は株主総会の決議事項であり、決議をせずに「やったことにして」進めると、裁判で無効と認定される可能性があるので注意が必要です。

  2. (2)任期途中の解任は損害賠償のおそれあり

    相手が役員を辞めたくないと思っている場合、株主総会で承認を得たとしても、相手は納得しないでしょう。
    役員の任期途中の解任の場合、解任に相当な理由がなければ相手から損害賠償を求められる可能性があります(会社法第339条2項)。

    なお任期満了時に役員として再任しないことには、基本的に問題はありません。

  3. (3)離婚を理由に解雇できない

    離婚した相手と一緒に働くのは嫌かもしれませんが、離婚だけを理由とした解雇は認められていません。

    労働契約法第16条は、解雇は「客観的に合理的な理由があり、社会通念条相当でない場合には無効とする」と定めています。

    そのため単純に「もう家族ではない」「気まずい」「顔も見たくない」といった理由で相手を解雇することは違法です。

    相手が不倫をしていたとしても、それはあくまで家庭内の話です。

    合理的な理由なく一方的に解雇すると、不当解雇だとして裁判を起こされるおそれがあります

    ただし離婚前から勤務態度が著しく悪かったり、会社のお金を私的に流用したりするといった事情があった場合には、離婚の有無にかかわらず解雇が認められる可能性があります。

  4. (4)自主的に退任・退職してもらうのはOK

    相手も離婚した後も一緒に仕事をするのはやりづらいと思っているかもしれません。
    その場合はよく話し合って、自主的に会社を去ってもらうこともひとつの方法です

    なお相手が会社の運営に欠かせない存在であり相手も仕事を続けたいと思っている場合には、離婚後も会社にとどまってもらい、ビジネスパートナーとして付き合っていく方法があります。

    会社とプライベートは切り離し、よく話し合って会社の今後にベストな方法を探しましょう。

4、家族経営の会社の離婚における慰謝料と子どもの親権

離婚の際には慰謝料や子どもの親権についても決めなければいけません。争いになった場合、当事者間で解決できなければ調停や裁判になる可能性があります。

  1. (1)不倫やDVがあれば慰謝料が発生

    慰謝料には、相手が受けた精神的苦痛を金銭の支払いで償うという役割があります。
    そのため性格の不一致などでお互いが納得して離婚する場合には、慰謝料を払う理由がありません

    一方で不倫やDV、モラハラなど、離婚を招いた事情があった場合には、慰謝料が発生する可能性が高いでしょう。

    慰謝料の金額は不倫やDVの期間や内容によって変わります。

  2. (2)会社を継がせたいなら子どもの親権を考えよう

    夫婦の間に未成年の子どもがいる場合、どちらが親権を持つか決めなければ離婚できません。

    もし家族経営の事業を「将来、子どもに継がせたい」と思っているのであれば、親権を持つことも考えた方がよいでしょう。

    もちろん親権がないからといって、子どもに会社を継がせられないわけではありません。
    ただ子どもと離れて生活したり離婚後に交流が途絶えたりすると、子どもは非親権者やその会社に触れる機会が減ります。

    「自分の背中を見せたい」「会社に愛情を持ってほしい」「近くで経営を学んでほしい」といった思いがある場合には、親権者になるか面会交流の機会をしっかりと作るなど、子どもと触れあう機会を増やす方法を考えましょう。

    なお親権は「子どもの利益と福祉」を最優先に決められます。
    親権争いになり調停や裁判になった場合、「会社を継がせたい」という理由だけでは親権は認められないでしょう
    相手より経済的に裕福であっても養育費で生活のサポートができるため、親権には大きく関係しませんので注意が必要です。

5、まとめ

家族で会社を経営している夫婦の離婚には、特有の問題があります。会社の運営形態によっては、財産分与や役員の解任の判断が難しいケースもあります。離婚に際して配偶者の立場や財産分与でお困りの場合は、どうぞベリーベスト法律事務所 町田オフィスにご相談ください。弁護士が家庭や会社の事情を考慮して、できるだけ良い形で離婚できるようにサポートをいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています