借金の踏み倒しはできるのか? 時効との関係
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町田市では、消費生活相談員が多重債務者の相談を受けて、弁護士や司法書士への法律相談の予約などを行う取り組みが行われています。
返済な困難な借金を抱えている方のなかには「督促を無視し続ければ、いずれ時効により借金を踏み倒すことができるのではないか」と考えている方もおられるでしょう。しかし、時効により返済義務を免れるようとすることは、実際には実行することが非常に困難なうえに、一括請求をされたりブラックリスト入りされたりするなどの大きなリスクもはらんでいます。
本コラムでは、借金の返済が困難になった場合に借金を踏み倒そうとすることのリスクや、借金における時効の扱い、債務整理の方法などについて、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。
1、借金を踏み倒すことは可能?
法律的には、「借金を踏み倒す」ことを正当化するためには、返済義務を返済以外の方法で消滅させることが必要になります。
以下では、返済義務を消滅させるための具体的な方法や、そのリスクやデメリットについて解説します。
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(1)借金により生じる返済義務
銀行や消費者金融、クレジット業者のキャッシングやクレジットを利用する際には、契約を結ぶ必要があります。専門の業者にではなく、友人や親族などから借金をする場合も同様です。
契約を結んだ以上は「いつまでにいくら返済する」という契約に従って返済する、法律的な義務が生じます。
この返済義務を履行しなければ、民事裁判など裁判手続きを経て、最終的には預金や給料や不動産などの財産を差し押さえられて履行を強制されることになります。
ただし、裁判手続きや強制執行は債権者が申し立てない限りは行われないものであるため、債権者が放置していれば時効が到来するという場合もあります。 -
(2)踏み倒しのリスク
以下では、督促を無視して返済をしないまま放置することのデメリットやリスクについて解説します。
① 遅延損害金とともに一括請求される
電話やハガキなどによる督促に応じない場合、契約で認められた分割払いができなくなり、未払いの借金や利息とともに遅延損害金を一括で返済しなければならなくなります。
消費者金融からの借金については、遅延損害金の上限利率は年20%とされていますが、返済をしない期間は借金が膨らみ続けることになってしまうのです、
② ブラックリストに掲載される
日本国内で営業する銀行や消費者金融やクレジット業者などは、顧客の信用情報や返済の遅延などの事故情報をデータベース化して共有しています。
これらの業者への返済義務を怠ると、信用事故として登録されることになっています。
この状態は、俗に「ブラックリストに掲載される」と呼ばれます。
ブラックリストに掲載されると、借金やクレジットの審査に通らなくなり、持っているクレジットカードも利用できなくなってしまうのです。
③ 連帯保証人にも請求される
借金をする際に連帯保証人を付けている、という場合もあります。
連帯保証人は借主と同等の責任を負う立場にあるため、借りた本人が返済義務を履行しない場合には、連帯保証人に請求されることになります。
したがって、連帯保証人となってくれた方に経済的な負担を押し付けたり、迷惑をかけたりしてしまうことになるのです。 -
(3)夜逃げや海外移住で踏み倒すことはできる?
債権者に連絡せずに転居しても、貸金などの権利がある債権者は債務者の住民票や戸籍を取得することができるため、転居先は容易に突き止められてしまいます。
結婚や養子縁組により改姓しても同様です。
債権者の目を逃れるために、住民票を動かさずに転居される方もおられます。俗に「夜逃げ」と呼ばれる行為です。
しかし、転居をした後に住民票を異動しないと、そのこと自体が法律違反となり、5万円以下の過料の制裁を受けることがあります。
さらに、国民健康保険の加入や、運転免許の取得や更新などにも支障が出るため、生活面でも様々な悪影響が発生することになります。
仮に海外移住したとしても、後になってから日本に戻る必要が生じた場合に、過去の借金の問題がネックになる可能性があります。
夜逃げや海外移住によって借金を踏み倒そうとすることは、リスクやデメリットが大き過ぎるため、賢明な方法とはいえないのです。
2、返済義務がなくなることはある?
「消滅時効」という制度によって、借金の返済義務がなくなる場合があります。
また、より一般的には、借金問題を解決するためには「債務整理」という制度が用いられます。
以下では、これら二つの制度について解説します。
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(1)消滅時効とは?
借金などの債権について、請求も返済もせず、一定期間放置された状態が継続した場合には、「時効を援用」することにより返済義務を消滅させることができます。
これを「消滅時効」と呼びます。
消滅時効の期間や注意点などは下記の通りです。① 消滅時効の期間
消滅時効を援用することができるようになるまでの期間は債権の種類によって異なりますが、金融業者やクレジット業者との取引による借金の時効期間は5年です。
なお、令和2年4月より前の個人間の貸し借りによる借金の時効期間は10年となります。
② 消滅時効のポイント
消滅時効が成立するためには、時効期間が経過するだけではなく、債権者と債務者が時効をリセットさせる行為をしていないことも必要になります。
時効をリセットすることを時効の更新といい、時効が更新されると、新たな時効期間がゼロから始まります。
債権者がとりうる時効更新の手段は、訴訟などの裁判手続きや強制執行などがあり、裁判手続きにより借金の権利が確定すると時効が更新されて時効期間は10年になります。
また、時効を更新する裁判等が確定してから10年以内に強制執行や裁判手続きを行えば、さらに時効が更新されます。
裁判手続きの一つである訴訟は、住民票を動かさずに転居して所在不明となっている場合や海外移住している人に対して提起することも可能です。
知らないうちに訴訟を起こされて消滅時効が更新されていたというケースも珍しくないため、くれぐれも注意してください。
③ 注意点
金融業者やクレジット会社は、必要に応じて裁判手続きなどで法的手段による回収を図りつつ、消滅時効を更新する手続きをとっています。
消滅時効は時効を援用するまで返済義務が消滅しないうえに、債務者が返済する意思を示す行為をした時点で、時効が更新されてしまいます。
借金を踏み倒そうとしても、訴訟や強制執行などにより消滅時効が更新される可能性は高いでしょう。
しかし、貸金業者などが請求してくる借金について消滅時効が成立することは絶対にない、というわけでもありません。
もし、消滅時効が成立していると思われる借金について督促を受けたり裁判手続きを起こされたりした場合は、安易に対応したり放置したりせず、まずは弁護士に相談してください。 -
(2)債務整理とは?
「債務整理」とは、借金の返済が困難になった場合に、法律に規定された制度や当事者間の話し合いによって返済義務を減免してもらう手続きです。
生活再建のために返済義務を減免してもらうことに主眼が置かれており、借金問題を解決するための最適な方法といえます。
一方、債務整理をする場合の共通のデメリットとして、前章でも解説した「ブラックリストに掲載される」という問題があります。
債務整理をしてブラックリストに掲載されると、その後の5年から10年の間、新たな借金をしたりクレジットカードを利用したりすることができなくなってしまいます。
しかし、借金の返済が滞った場合にも、どちらにせよブラックリストに掲載されることに変わりはありません。
クレジットカードが使えないなどの不便は避けられませんが、債務整理により借金を減免してもらったうえで、早期に生活再建に取り組むほうが賢明といえるでしょう。
3、債務整理の主な方法
個人の方が利用する債務整理の方法としては、「任意整理」「個人再生」「自己破産」の三種類が一般的です。
以下では、それぞれの手続きについて解説します。
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(1)任意整理
任意整理とは、債権者と個別に交渉して金利を減免してもらい、3年程度の分割払いにより完済を目指す方法です。
「月々の返済はなんとかできているものの、ほとんどが利息の支払いで消えてしまい、借金がなかなか減らない」という状態の方に適した手続きといえます。
弁護士が依頼を受けて任意整理をする場合は、返済済みの分も含めて適正な利息計算をし直したうえで、将来発生する利息などは免除してもらう内容でまとめることが一般的です。
新たに利息などが発生しないことから、月々の返済額を減らせる可能性が高く、取引履歴が長いケースでは借金が減額されることもあります。
また、任意整理は、「家族には知られたくない」「ローン中の住宅や車を手放したくない」「保証人に迷惑を掛けたくない」といった様々なニーズにも柔軟に対応することができるため、最も多くの方に利用されている方法となっています。 -
(2)個人再生
個人再生とは、借金を大幅にカットしたうえで、原則3年以内に返済する再生計画を認可してもらい、分割返済していく方法です。
借金の減額率は財産や収入によっても異なりますが、「5分の1」から「10分の1」になることもあります。
「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」を利用することにより、自宅を手放すことなく住宅ローン以外の借金のみ減額してもらうことができるという点が、個人再生の大きな特徴です。
借金の額が比較的大きく、任意整理では解決が難しい場合や住宅を維持したい場合などに利用されることが多い方法となっています。 -
(3)自己破産
自己破産とは、所有している財産を処分する手続きを行い、その後に借金を全額免除してもらう手続きです。
「財産を処分する」といってもその対象となるのは住宅など高額な資産に限られており、生活の維持に必要な財産は引き続き保有が認められます。
実際には、財産を処分する手続きが省略されたり、財産を処分する代わりに一定額の積立金を拠出したりして、借金の免除が認められるケースも少なくありません。
収入が途絶えるなどして借金の返済が困難になった方に利用される手続きとなっています。
4、借金問題は弁護士へ相談を
借金の返済義務は、原理的には時効によって消滅する可能性もありますが、実際には消滅時効が到来することはほとんどないといえます。
そのため、原則的に、借金問題を解決するためには、債務整理以外に適切な方法はありません。
法律の専門家である弁護士は、債務整理にも対応できます。
たとえば、任意整理については個人の方が直接交渉しても、金利の減免まで応じてもらえることはほとんど期待できません。
しかし、債務整理全般について法律知識がある弁護士が交渉に乗り出すと、多くの場合には、債務整理の必要性に理解を示して金利の減免にも応じてもらえる可能性があります。
また、個人再生や自己破産などの手続きを実施するためには、多岐にわたる書類を用意する必要があるほか、少なからず法律知識も必要になります。
弁護士に依頼すれば、裁判所での手続きを代行させることができます。
また、多くの地方裁判所では、弁護士が代理人として手続きを行う場合は、裁判所に納める費用が減額される運用になっています。
さらに、借金問題の解決を弁護士に委任した時点で弁護士が窓口となり、債権者の督促をストップさせることも可能です。
借金についてお悩みやトラブルを抱えている方は、まずは弁護士に相談して、借金の状況や希望を伝えたうえで、債務整理の方法を提案してもらいましょう。
5、まとめ
借金のお悩みは他人に相談しづらい問題です。
また、「できれば踏み倒してしまいたい」と考えられている方も多いでしょう。
しかし、借金の消滅時効は更新されることがあり、実際に返済義務を消滅させることは困難です。
さらに、時効期間が経過した借金であっても、対応を誤ると返済しなければならなくなるリスクも存在します。
そのため、借金の問題を解決したい場合には、消滅時効の到来を待つのではなく債務整理の手続きをとることが現実的です。
弁護士は、債務整理についてアドバイスしたり手続きを代行したりできるほか、時効に関する法的紛争を解決することもできます。
借金問題でお悩みの方は、お早めに、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスまでご相談ください。
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