「不同意わいせつ罪」とは? 旧「強制わいせつ罪」との違いを解説

2024年04月16日
  • 性・風俗事件
  • 不同意わいせつ罪
「不同意わいせつ罪」とは? 旧「強制わいせつ罪」との違いを解説

令和4年10月、町田市職員の男が警察に逮捕されました。報道によると男は夜の路上で女性に後ろから抱きつき、マスクをはぎ取ってキスをするなどしたそうです。

この事件に適用された罪状は「強制わいせつ罪」が適用ですが、本罪は令和5年7月13日に施行された改正刑法によって「不同意わいせつ罪」に変更されています。

本コラムでは「不同意わいせつ罪」の概要や犯罪が成立する要件などについて、以前の「強制わいせつ罪」との違いに照らしながら、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。

1、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」に変更された

刑法には、もともと「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」という犯罪が定められていました。
以下では、「不同意わいせつ罪」に改正された背景にあった問題や事情を解説します。

  1. (1)改正前の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪の概要

    令和5年7月の改正よりも前は、刑法第176条に強制わいせつ罪が、同第178条に準強制わいせつ罪が定められていました。

    • 強制わいせつ罪の対象
      13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者

    • 準強制わいせつ罪の対象
      人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせてわいせつな行為をした者


    強制わいせつ罪が適用されてきた典型的な例としては、いわゆる「痴漢」と呼ばれる行為が挙げられます。
    「暴行・脅迫」という要件がありますが、相手の反抗を抑圧する程度であれば足りるとされているので、具体的な暴力や脅しがなくても成立するというのが通説でした。

    準強制わいせつ罪が適用されてきた典型的なケースは、たとえば酒に酔ったり薬物の影響で意識がはっきりしなかったりしている相手にわいせつな行為をした場合です。

  2. (2)強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪が不同意わいせつに改正された理由

    強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪には、暴行・脅迫・心神喪失・抗拒不能という要件がありました。
    これらの要件は、判例によって一応の基準は示されています。
    しかし、解釈や状況によって成否にばらつきが生じやすいため、本来は処罰されるべきだったのに「暴行があったとはいえない」「抗拒不能であったとまではいえない」といった判断によって処罰されなかったケースも少なくなかったと考えられます。

    この点を改めて、適切な処罰を加えるために犯罪が成立する要件を明確化したのが「不同意わいせつ罪」です

2、不同意わいせつ罪が成立する要件

不同意わいせつ罪が成立する要件を確認していきます。

  1. (1)「不同意」であること

    不同意わいせつ罪の成立においてもっとも重要なポイントとなるのが「不同意」であることです
    ここでいう不同意とは、次に挙げる8つの行為・事由が原因となって、同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態を指します。

    • 暴行または脅迫
    • 心身の障害
    • アルコールまたは薬物の影響
    • 睡眠そのほかの意識不明瞭
    • 不意打ちなど、同意しない意思を形成・表明・全うするいとまが存在しない
    • フリーズなど、予想と異なる事態との直面に起因する恐怖や驚愕
    • 虐待に起因する心理的反応
    • 経済的・社会的関係上の地位にもとづく影響力による不利益の憂


    また、相手にわいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせたり、または相手がそのように誤信していることに乗じた場合も同様です。

    ここで挙げた要件は、旧強制わいせつ罪と旧準強制わいせつ罪の要件を統合しつつさらに明確化したものであるため、処罰の対象が拡大されたわけではありません。

  2. (2)わいせつな行為をしたこと

    不同意わいせつ罪は「わいせつな行為」がなければ成立しません。
    ここでいう「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通の人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものと定義されています。

    たとえば、胸や尻を触る、抱きつく、キスをするといった行為はわいせつな行為にあたると考えるのが通説です。

    なお、これらの行為は「性欲を満たしたい」という性的意図をもっておこなうのが一般的ですが、本罪の成立に性的意図は不要だといわれています。

    たとえば、嫌がらせを目的として「服を脱げ」と脅し、あとで脅す目的で裸姿の写真を撮ったといったケースでは、加害者に性的意図は認められません。
    しかし、性的意図がないからといって被害者の精神的な損害が和らぐということにはならないので、「性的意図の有無に関係なく処罰の対象となる」というのが現在の裁判所の考え方です。

  3. (3)16歳未満の者が相手の場合

    16歳未満の者を相手にわいせつな行為をした場合は、たとえ相手の同意を得られていた場合でも本罪が成立します。
    この要件は「性的同意年齢」と呼ばれています。

    旧強制わいせつ罪における性的同意年齢は13歳とされており、13歳未満の者を相手にわいせつな行為をした場合は同意があっても処罰の対象でしたが、不同意わいせつ罪の新設に伴い性交同意年齢が16歳に引き上げられました。

    なお、相手が13歳以上16歳未満で、加害者との年齢差が5歳以内であれば処罰の対象にはなりません。
    これは、相手の年齢だけで犯罪の成否が決まることによって未成年者同士の性交までもが処罰の対象にならないようにするための措置です。

3、不同意わいせつ罪で科せられる刑罰

以下では、不同意わいせつ罪の刑罰について、従来の旧強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪と比較しながら解説します。

  1. (1)不同意わいせつ罪の法定刑

    不同意わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。
    罰金などでは済まされず、最短で6か月、最長では10年にわたって刑務所に収容されるという、非常に厳しい刑罰が設けられています。

    なお、従来の旧強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪の法定刑も6か月以上10年以下の懲役で「拘禁刑」と「懲役」という違いはあるものの、刑期の上限や下限に差はありません。

  2. (2)「拘禁刑」とは?

    不同意わいせつ罪への改正によって、法定刑の種類が懲役から「拘禁刑」へと変わりました。

    現行の刑法では、主刑の種類を死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料の6種類と定めていますが、刑法が改正されて懲役と禁錮が拘禁刑へと一元化されます。
    拘禁刑とは、個々の受刑者の特性などに応じて改善や更生に効果の高い処遇を柔軟に取ることができる刑罰です。
    たとえば、従来の懲役と同じように刑務所内で作業に従事させることがあれば、禁錮と同じように作業には従事させない代わりに再犯防止プログラムを施すことに重きを置くといった処遇を取ることもできるようになります。

    もっとも、一定の刑期が定められて刑務所に収容され、一般社会から隔離されることに変わりはありません。

    また、令和5年8月の段階では、拘禁刑の施行日は未定です。
    令和7年6月17日までのどこかで施行される予定ですが、施行までは従来の法定刑が適用されるので、施行日の前日までに起こした不同意わいせつ事件の法定刑は6か月以上10年以下の懲役となります。

4、不同意わいせつ罪の容疑で逮捕や刑罰が不安なら弁護士に相談を

不同意わいせつ罪は厳しい刑罰が定められている犯罪です。
昨今、性犯罪に対する社会の批判は高まる一方であるため、厳しい処分が科せられる事態も想定されます。

「不同意わいせつ罪にあたる行為を犯してしまった」という方や、すでに警察による捜査を受けているなどの状況に置かれている方、逮捕や刑罰に不安を感じている方は、速やかに弁護士に相談してください

  1. (1)逮捕を避けるための弁護活動が期待できる

    令和4年版の犯罪白書によると、旧強制わいせつ事件の容疑で全国の検察庁が処理した人員は4010人で、うち2152人が警察に逮捕され、検察官へと引き継がれています。
    逮捕された人の割合を示す身柄率は53.7%で、刑法犯全体の平均34.1%と比べると高い数値となっているため、不同意わいせつ罪は「逮捕されやすい犯罪」だといえるでしょう。

    警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、送致されて検察官の段階で24時間以内の身柄拘束を受けたうえで、さらに検察官からの請求で勾留が認められると10日~20日間にわたって身柄を拘束されます。
    逮捕・勾留による身柄拘束の期間は最長23日間にわたるため、家庭や仕事、学校などへの悪影響も計り知れません。

    逮捕を避けるためには、素早い示談交渉による解決が大切です。
    ただし、不同意わいせつ事件の被害者の多くは加害者に対して強い怒りや嫌悪といった感情を抱いているので、示談交渉に応じてもらえないおそれがあります。
    示談交渉を進めるには、弁護士に代理人として対応をまかせるのが最善です。

    弁護士が窓口となって示談が成立すれば、早い段階なら警察に事態が発覚する前に解決できる可能性があります。
    すでに被害者が警察に被害を申告したあとでも、警察が逮捕に踏み切る前に示談が成立すれば被害届・刑事告訴が取り下げられて捜査が終結し、穏便に解決できる可能性も高まるでしょう。

  2. (2)処分の軽減に向けた弁護活動が期待できる

    すでに警察が捜査を進めており、不同意わいせつ罪の容疑で取り調べを受けている状況なら、検察官が起訴に踏み切って刑事裁判に発展する危険が高まります。
    検察官が起訴に踏み切った事件の有罪率はきわめて高いため、刑事裁判が開かれるということは「有罪判決を受ける」という事態が迫っていると考えるべきです。

    不同意わいせつ罪の法定刑は拘禁刑だけなので、罰金で済まされる可能性はありません。
    刑務所に収容されてしまう事態を避けたいと望むなら、検察官が起訴に踏み切る前に示談を成立させて不起訴処分の可能性を高めるか、あるいは刑事裁判で有利な事情を示して処分が軽い方向へと傾くようにはたらきかけるための対策が必要です。

    処分の軽減を実現するためにも、やはり弁護士のサポートは欠かせません。
    被害者との示談交渉や有利な証拠収集などの弁護活動は、刑事事件の弁護実績を豊富にもつ弁護士にまかせましょう。

5、まとめ

「不同意わいせつ罪」は、令和5年7月13日に施行されました。
従来の旧強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を統合し、犯罪の成立要件が明確化されたので、今後は処罰の対象となるかどうかの判断が厳密になるものと考えられます。

不同意わいせつ罪は、有罪判決を受けるとかならず刑務所へと収容される刑罰が科せられる重罪です。
警察に逮捕されれば長期の身柄拘束を受けるおそれもあるので、身に覚えがある方は、素早く対策を講じて解決を目指しましょう。

不同意わいせつ罪やそのほかの罪でご自身やご家族が捜査の対象となった方や、犯罪に問われる可能性のある行為をしてしまい不安に感じている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、逮捕や厳しい刑罰の回避を目指して全力でサポートします。

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