管理職に残業代は支払われない? 管理職でも残業代を請求する方法とは

2019年07月12日
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管理職に残業代は支払われない? 管理職でも残業代を請求する方法とは

日本ではサラリーマンの残業による過労が社会問題化しています。厚生労働省が発表した平成29年度「過労死等の労災補償状況」によると、脳、心臓疾患に関する労災請求件数は840件、精神障害に関する労災請求件数は1732件と、いずれも前年比増という結果となっています。

心身を疲弊するような過労はもちろん大きな問題ですが、残業代不払い問題も深刻な状況になっていると考えられます。ブラック企業と呼ばれる悪徳企業だけでなく、有名企業でも「管理職だから」という理由で、残業代の支払いを拒否することが少なくありません。

残業代を支払わなくてよいという管理職の定義は、法によって定められています。今回はベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が、管理職と呼ばれている方でも残業代を請求できるケースや、請求方法についてわかりやすく解説します。

1、そもそも残業代とは?

残業代とは、就業規則や法律で定められた時間以上に労働したときに支払われる賃金です。会社ごとに決められている労働時間を「所定労働時間」、法律で定められている労働時間を「法定労働時間」といいます。法定労働時間は「1日8時間、1週間で40時間」です。会社ごとに決める「所定労働時間」も原則としてこの範囲内に収めなければなりません。

残業代はこれらの所定労働時間や法定労働時間を超えて労働した場合に発生します。具体的には、通常時に支払われる賃金の1.25倍を支払わなくてはならないと、決められています。

これ以外にも、休日出勤手当や深夜手当なども併せて請求できることがあるでしょう。

2、管理職に残業代を支払わないことは違法の可能性あり

「管理職だから残業代は支給されません」と会社に通知されている方が少なくないようです。しかし、実は管理職だからと言って残業代を支払わないことは違法である可能性があります。なぜならば労働基準法で定められている残業代を支払う必要がないとしている「管理監督者」と会社や社会が認識している「管理職」に大きな隔たりがあるためです。

まずは、経営者や企業は何を根拠に「管理監督者」は残業代支払いの適用外、としている可能性があるのかを確認してみましょう。

労働基準法では、残業代の適用外となる者についても定めています。その中でも、労働基準法第41条第2号によって、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」と明記しているのです。

しかし、上記のとおり労働基準法で定める管理監督者は厳密に規定されています。したがって、会社があなたのことを管理職と考えていても、労働基準法では管理監督者には該当しないケースがあります。その場合、会社の就業規則で、管理監督者を定義し、残業代を支払わないと規定してあっても、管理監督者の基準が労働基準法の想定している管理監督者でなければ、就業規則自体が違法です。

会社側が、就業規則を盾に残業代の支払いを拒否しても労働基準法違反の就業規則に、効力はありませんので、残業代の支払いを求めることが可能となるケースが多いのです。

本当は「管理監督者」ではないのに、残業代が支払われない管理職のことを「名ばかり管理職」と呼ぶこともあります。多くの会社では、係長や課長だけでなく、部長やマネージャーも名ばかり管理職という事例が少なくありません。

3、管理職の基準とは? 想像以上に管理職の範囲は狭い

では、次は労働基準法が想定している「管理監督者」の基準を知っておきましょう。過去の裁判によって、管理監督者の具体的な例が明らかになっています。管理監督者の基準は以下のとおりです。

●一般の社員よりも給与が優遇されている
労働基準法の管理監督者は、一般の社員よりも明らかに高い給与が支払われてなければなりません。「係長」や「課長」という役職がついていても、月収が一般社員と数万円しか変わらないようでは、管理監督者とは言えないでしょう。

●経営者側の立場で業務を遂行している
管理監督者は、肩書きだけでなく、実際に部下を事実上管理する立場でなければなりません。事実上管理する立場というのは、経営者サイドで仕事をしているということ。課長だけでなくマネージャーや部長でも、経営者サイドと言えない場合は、管理監督者とは見なされず「名ばかり管理職」と言えます。

会社の規模や組織体系によって様々なポストがあり、会社側にも主張がありますが、「経営者サイドで働いているのか」がひとつの目安となりますので、自分の業務内容が経営者サイドに立って行われているものかどうかを考えてみるとよいでしょう。

●出勤・退社時間が自由かどうか
管理監督者は、出勤時間や退社時間に裁量が与えられており、業務などに応じて出勤や退社時間を自分で決めることができます。一般社員と同じ時間に、出社し一番遅くまで残って業務を遂行しなければならないような従業員は、管理監督者とは言えません。

以上が、管理監督者の3条件と言われています。あなたの労働形態は上記3条件のすべてに当てはまるでしょうか。

残念ながらというべきか、多くの会社の課長や係長、部長までもが「管理監督者」とは言えないのが実情です。したがって、「管理職だから」という理由で残業代が支払われないという状態は違法であるといえるでしょう。

あきらめずに、以上の3条件に該当するかどうかを考えた上で、ひとつでも当てはまらない項目があれば、残業問題の経験が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

4、管理職が残業代を請求するための2ステップ

管理職が残業代を請求するために必要なステップは2つです。まずは、「会社の就業規則を確保する」こと、そして「残業時間を証明する証拠を集める」ことです。

最初のステップとして、会社が規定している所定労働時間や、管理職の残業代についての規定などを把握しておく必要があります。その上で、残業時間を証明できる証拠を確保しましょう。

多くの会社では、タイムカードで出退勤を記録していますので、タイムカードの写しなどを手に入るだけ入手しておきましょう。タイムカードなどの会社がオフィシャルで用意している出退勤記録がない場合は、業務日誌などの自分が記録しているものでも証拠になる可能性があります。

それ以外にもあなたがメインで使用するパソコンのオンオフ履歴も残業を証明できる証拠と言えます。それすらもない場合には、家族などに「今から帰る」と送ったメールも残業代の証拠とになることがあります。必ず保存しておきましょう。

現状は残業代の証拠となりえるものが全く手元にない、と考えられる場合においても弁護士に相談してください。個別の事情を聞いた上で適切なアドバイスをいたします。その際に、請求できる可能性がある残業代も算出します。自分が名ばかり管理職なのか、労働基準法の定める管理監督者なのかが判断できない場合も、弁護士に相談して判断を求めるとよいでしょう。

弁護士に依頼した場合、弁護士は内容証明郵便で未払いの残業代を会社に通知します。その後、会社と弁護士が交渉することになります。つまり、自分が会社側と残業代について交渉する必要はなくなります。

弁護士と会社の交渉が決裂した場合は「労働審判」や「民事訴訟」等の法的措置をとり、適正な残業代の支払いを求めることになります。労働審判や民事訴訟の対応は大量の証拠の提出や法に則った残業代の計算が求められますので、ご自身で最初からミスなく対応されるのは困難と思われます。交渉が決裂してしまった場合にも、引き続き適正な請求を行う手段をとれるという意味でも、最初から弁護士へ依頼されるのが得策です。

5、残業代請求の時効に注意!

管理職が残業代を請求する場合に注意すべきことは「時効」です。残業代の請求時効は2年なので、2年以上過去の分までをさかのぼって残業代を請求することはできません。つまり、あなたが数年間、管理職を理由に残業代が支給されていなかった場合は、給与の支払日を基準に1か月毎に時効が成立して、請求すべき残業代が消えてしまっているのです。

長期間残業代が支払われていないという方は、迅速に残業代請求の手続きに着手しなければなりません。とはいえ、通常業務と並行しながら証拠を集めたり、適正な残業代を計算して、会社側と交渉したりするのは至難の業と考えられます。時効が迫っている場合は特に、速やかに弁護士に依頼することをおすすめします。

6、まとめ

管理職の残業代は支払われないものとあきらめている方が少なくありません。しかし、日本の実情では労働基準法が定める管理監督者の条件に合致する管理職の方はそれほど存在しないと考えられます。

したがって、管理職だからと残業代の請求をあきらめずに、まずは弁護士に相談したほうがよいでしょう。請求できる残業代を試算してもらった上で、会社側に残業代を請求することを検討してみる価値は大いにあります。

ベリーベスト法律事務所 町田オフィスでは、支店長やマネージャーなど、いわゆる管理職と呼ばれる方であっても残業代請求のご相談をいただければ、請求可能性についてご事情に従って丁寧に検討させていただき、あなたにとって最適な対応をアドバイスします。あきらめる前に、まずはお気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています