労災事故後に退職勧奨された! 自己都合で辞めるべき?

2024年04月09日
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労災事故後に退職勧奨された! 自己都合で辞めるべき?

東京都産業労働局が公表している令和4年東京都の労働相談の状況によると、年間労働相談件数は4万6269件でした。また、労働相談情報センターへの来所相談件数は、令和3年と比較すると21.3%増の9675件です。

労働災害の被害にあった後に会社から退職を勧奨されても、労働者自身が希望しない場合には、自己都合で退職する必要はありません。また、法律では、労災が起こった後の一定期間は企業や経営者は労働者を解雇できないことが定められているのです。

本コラムは、「退職勧奨」という手続きの概要や自己都合退職と会社都合退職との違い、退職を勧奨されてもすぐに応じてはいけない理由などを、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。

1、退職勧奨と自己都合退職・会社都合退職の違い

  1. (1)退職勧奨とは

    退職勧奨とは、労働者に対して会社から退職を勧める行為のことを指します。
    会社側としては経済状況の悪化や業績不振により人件費を削減するため、リストラの一環として退職を勧めることがあります。
    また、長期にわたる休職やパフォーマンスの低下など、個々の労働者の状況を考慮して退職を勧める場合もあります。

    ただし、労働者が「退職したくない」意志を明確に示しているにもかかわらず、企業側から退職を何度も強く勧奨する行為は、違法となる可能性があります
    退職勧奨はあくまでも会社と労働者による話し合いによって退職を目指す行為であるため、会社側から一方的に退職させようとすることは認められません。

    労働者が自主的に退職を行うか、会社から言い渡されるか、という点が退職勧奨と解雇の違いになります。

    労災申請したいと会社に伝えた際に退職勧奨されても、退職する意思がないのであれば応じないようにしましょう。

  2. (2)自己都合退職と会社都合退職の違い

    自己都合退職と会社都合退職は、ともに労働者が雇用関係を終了する方法ですが、その理由と結果に違いがあります。

    自己都合退職とは、労働者が自身の意思で退職を決断したことを意味します。
    この場合にも労働者は失業給付金の給付を受け取ることはできますが、給付開始まで約2か月の期間がかかります。

    一方で、会社都合退職とは、会社側から退職を求められ、それを受け入れた場合に成立します。
    会社都合退職の場合には、退職後から1週間程度で失業給付金が受け取れます。

    失業保険をいつから受け取ることができるかが変わってくるため、会社を退職する際には、自己都合退職とするか、会社都合退職とするか、会社と事前に話をしておくのがよいでしょう。

2、すぐに退職勧奨に応じてはいけない理由

  1. (1)労災後の療養期間とその後30日間は解雇が禁止されている

    労働者が労災により休業する際には、療養期間とその後の30日間は解雇が禁止されています。

    したがって、労災で働けないからといってすぐに解雇することは違法になるのです。

    ただし、この期間中でも被災労働者に対して使用者が打切補償を行ったり、事業が継続できなくなったりした場合には、例外として解雇が認められています。
    「打切補償」とは、労働災害後に働けなくなった労働者が元の職場に戻れない場合に、使用者が一定の補償金を支払うことで被災労働者を解雇できる制度です。

  2. (2)労災申請したときに退職を促されることは許されていない

    労災を申請した際に退職勧奨することは認められていません。
    労働者が労働災害で傷病を負った場合には、その損害に対する補償を求める権利が保証されているためです。

    労働者が労災申請を行った後、会社がそのことを理由に退職を強いる行為は不利益な取り扱いとみなされ、法律に違反します。

  3. (3)退職強要は違法行為である

    退職勧奨が過度になり強制的なものとなった場合には「退職強要」となり、違法行為になり得ます。
    具体的には、退職勧奨に関連して以下のような問題が発生している場合には、退職強要となり得ます。

    • 日常の業務を行えないほどのハラスメント
    • 長時間労働の強制
    • 不適切な業務命令
    • 給与未払い


    労働基準法では、労災により療養中の労働者を解雇することが禁止されています
    そして、これを無視して退職を強要する行為は法律に反します。
    また、退職強要のために精神的な苦痛を負った労働者は、会社側に対して慰謝料を請求できる可能性があります。

3、退職せずに損害賠償請求はできるのか

  1. (1)損害賠償請求は労働者の正当な権利である

    労災事故に対して、会社の安全配慮義務違反や使用者責任があった場合、その損害賠償を請求することは労働者の正当な権利です。

    ただし、損害賠償請求の手続きは複雑なため、弁護士など専門家の助けを借りることをおすすめします。

  2. (2)労災申請や損害賠償請求は解雇理由には該当しない

    企業は、労働者が労災を申請したことや損害賠償を請求したことを理由にして労働者を解雇することはできません。

    自身の身体や生活に影響をおよぼす労災にあった際、その治療や生活保障のために労災申請をすることは、労働者の基本的な権利として保障されているためです。

4、弁護士に相談すべき理由

  1. (1)違法な退職勧奨について法的なアドバイスを受けられる

    労働者側が退職を望んでいないのに退職を勧奨することは、ハラスメントや違法行為にあたり得ます。

    弁護士に相談すれば、退職強要の違法性を会社側に対して示したうえで会社側と交渉を行い、必要な場合には労働審判や裁判も選択肢に入れながら、適切な対応を取ることが可能になります。

  2. (2)損害賠償請求についてサポートを得られる

    会社に対して損害賠償を請求する際には、弁護士に相談することでサポートを得られます

    弁護士であれば、労働災害が原因で被った身体的・精神的損害などの損害項目について具体的に評価したうえで、相応の賠償額を導き出すことができます。
    また、損害賠償を請求する際には、事故の原因や責任の所在、労災認定の結果など複雑な要素についても、専門的な知見に基づいて適切に判断することができます。

5、まとめ

会社から退職勧奨されたとしても、労働者の側に退職する意思がない場合は、会社に従う必要はありません。
また、「労災を申請したり慰謝料を請求したりするようなら退職してもらう」などと会社側から脅されても、そのような行為は法律的に許されないものであるため、弁護士に相談したうえで自身の権利をはっきりと主張するようにしましょう。

労働災害に遭った後に会社から退職勧奨されてお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所までご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています