【企業向け】コロナ対策で社員の飲み会を禁止に。 法律上問題はある?
- その他
- 飲み会
- 禁止
新型コロナウイルスの感染防止のために企業が飲み会を禁止する動きが広まっています。
町田市内では、大学の部活の合宿所でクラスターが発生し、検査で陰性だった部員も外出自粛となり、ほかの部活も活動休止になりました。
ただ飲み会の禁止に社内からは「プライベートを制限するのはおかしい」という声もあるでしょう。
では会社が飲み会を禁止することは、法的に問題ないのでしょうか?詳しくご説明します。
1、会社がコロナウイルス対策をするべき理由
マスク着用・手指消毒の徹底、テレワークの導入、対面の会議禁止など、会社はさまざまな新型コロナ感染防止策を行っています。
会社がこういった対応をするのは、主に次のような理由があるからです。
【社員の命と健康を守る】
企業には従業員の安全を守る義務があります(労働契約法第5条)。
会社内での感染を防止することは、命と健康を守ることであり、雇用主として当然の責務です。
【顧客の命と健康を守る】
飲食店やサービス業、医療期間では、日々顧客や利用者との接触があります。
スタッフが感染していれば、顧客や利用者も感染する恐れがあります。
高齢者や入院患者の感染は、重症化や死亡のリスクが高いといえます。
そのため会社内や店舗、病院などでの感染防止策の徹底は、顧客や利用者を守ることにつながります。
【感染による事業への影響を回避する】
従業員の感染が判明すると会社は濃厚接触者の特定、感染者や濃厚接触者の自宅待機、感染者が働いていた店舗や営業所の消毒、社内外への事実の公表、オフィスの閉鎖など、さまざまな対応をしなければいけません。
これらは最優先でやるべきことであり、その間ほかの業務は止まります。
また休業となれば売り上げや営業活動に響き、事業全体への影響は避けられないでしょう。
企業規模によっては、倒産の可能性もあります。
そのためなんとしても感染拡大を防止することが、ひいては会社を守ることにも繋がります。
2、社員の飲み会や外出を禁止することはできる?
新型コロナで緊急事態宣言が発表されたころから、多くの会社が社員に飲み会を禁じました。全面禁止、3人以上での集まりは禁止など、程度に違いはありますが、いずれも社員の行動を制限するものです。法的に問題はないのでしょうか?
-
(1)企業の半数が「飲み会禁止」
民間の調査研究機関が2020年6月に行った調査によると、職場での飲み会を禁止している会社は20.7%でした。
飲み会の人数制限をしている会社と合わせると51.6%にのぼり、実に半数以上の会社で職場の飲み会の禁止・制限をしていました。
また飲み会禁止の有無にかかわらず、自粛明けでも約8割が会社の飲み会への参加を控えていました(ツナグ働き方研究所「職場の飲み会実態1000人調査」)。
会社が飲み会を禁じる動きは、コロナ禍の社員の意識や行動に大きく響いたということがわかります。 -
(2)原則、社員のプライベートには介入できない
飲み会禁止は病院や警察などにとどまらず、さまざまな会社に広まりました。
一方で「会社が社員のプライベートに口を出してもいいのか」「やりすぎではないか」という声も上がりました。
労働時間中であれば、労働者は使用者の指揮管理下にあり、基本的に会社の指示・命令には従わなければいけません。
一方で就業時間以外の時間の過ごし方は、社員の自由です。
平時は飲み会をする際に会社の許可は必要なく、いつどこで誰と飲食をするかを会社に報告する義務はありません。
そのためコロナ禍であっても、実はプライベートの時間に行う飲み会の「禁止」は私生活の自由を制限するものであり、原則として認められないのです。
3、「禁止」はできなくても「自粛要請」はできる
ここまでご説明したように、会社が社員に飲み会を禁止できません。ではできないはずの「飲み会禁止」を行っている会社があるのはなぜでしょうか。利用されているのが「自粛要請」です。
-
(1)禁止命令は×、自粛要請なら○
会社は社員のプライベートに介入することはできないため、飲み会の全面禁止または制限を命じることは基本的にはできません。
一方で「自粛」を求めることは可能です。
新聞などで「社員の飲み会禁止した」という企業の記事をよく見かけますが、実態としては「禁止した」のではなく「自粛を強く求めた」という企業も多いとみられます。
自粛要請であれば、社員のプライベートの自由も守れます。
ただし自粛要請の場合、強制力がないため社員の協力が必須です。
感染が広がるリスクや命・健康への影響、事業への影響など、要請する目的や根拠を示し、社員に理解・納得してもらったうえで進めましょう。
なお「寄り道禁止」など過度な対応はプライベートを制限するものであり、社員の反発も招きかねません。
自粛要請であっても必要最小限の範囲にとどめましょう。 -
(2)勤務時間外の行動は懲戒処分の対象?
プライベートの時間の行動については、会社が管理するものではなく、原則として懲戒処分の対象外です。
トラブルが起きても当事者同士で解決をしてもらいます。
ただ勤務時間外とはいえ、問題の内容によっては、会社がその責任を問われることがあります。たとえば悪質な飲酒運転事故や殺人事件です。
こういった事件ではテレビや新聞で会社名が報道されることがあるため、会社に苦情の電話がきたり、取引が取りやめになったりするなど事業に影響がでることがあります。
そのためプライベートの時間においても会社の信用を落とし、損害を与えるような行動をした場合は、処分も考えられるのです。 -
(3)事業内容によっては違反すれば処分も
では禁止と言われているなかで、飲み会に行った場合はどうなるのでしょうか?
飲み会の自粛要請はあくまでお願いであり、応じるかどうかは社員の自己判断によります。
無視したとしてもそれだけで社員を処分することは基本的にできません。
ただし事業内容によっては処分も検討されます。
兵庫県では外出自粛が求められていた時期に飲み会を行い、コロナの感染が広がったとして、当時の兵庫県警神戸西署の署長と副署長を厳重注意処分にしました。
たとえば病院や高齢者施設の場合、スタッフが感染し患者や利用者に感染が広がれば、死亡などの重大な結果につながることがあります。
こういった業種では飲み会を禁じることには合理性があり、会社側も強い態度で飲み会の自粛を要請していることでしょう。
そのためそれでも飲み会に行って感染し、集団感染につながった場合には、その結果によって懲戒処分の対象となる可能性があります。
ただし「懲戒解雇」は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、無効です(労働契約法第15、16条)
飲み会とコロナ感染の因果関係の立証が難しいという側面もあるため、一足飛びに懲戒解雇にすれば裁判などで不当解雇であり無効と判断される可能性があります。
懲戒処分が妥当かどうかは、ケース・バイ・ケースです。判断は難しいため、処分を下す前にまずは弁護士に相談されることをおすすめいたします。
4、リモート飲み会などの代替策を考えよう
飲み会の禁止は、感染防止策としては有効な手段といえます。
とはいえ大人数での会議禁止、複数名でのランチ禁止、リモートワークの推奨など、すでに社員にはさまざまな制限が課されているでしょう。
コロナ禍の自粛疲れによる精神的な影響も心配です。
厳しい自粛を求め続ければ、社員の不満もたまり、パフォーマンスが低下したり、会社との対立に発展したりするおそれもあります。
飲み会は社員同士のコミュニケーションやストレス発散として、一定の役割もあります。
そこで飲み会を禁止する場合には、代替案も同時に示しておくことをおすすめします。
たとえばリモート飲み会です。
就業時間外にウェブ会議ツールを使って、それぞれが自宅から画面越しに飲食や会話を楽しむもので、リモート飲み会に飲食代の補助を出す企業も出てきています。
社員の声も聞きながら、代替策を考えましょう。
5、まとめ
新型コロナウイルスの感染を防ぎ、社員や事業への影響を最小限に抑えるために、会社はどうしても社員の行動を制限しなければいけません。ただ要請に従わないからといって、即時解雇にすれば過剰な対応として解雇無効になる可能性もあります。
どのような制限であれば問題ないのか、どのような処分が適切なのか、判断に迷う場合には、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスにご相談ください。弁護士が法律や判例をもとに判断し、対応方法をアドバイスいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています