有償ストックオプションとは|メリット・デメリットや発行の流れ
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2021年に東京証券取引所に上場した企業のうち、ストックオプションを発行している会社の平均値は9.7%にのぼり、過去5年間で最大の値となりました。
町田市でもストックオプションが付与されることを魅力として求人広告を出している企業は複数存在しています。
ストックオプションは、会社の従業員のモチベーション向上や税務負担減などのメリットもある一方、デメリットも存在します。この記事では、有償ストックオプションの概要やメリット・デメリット、発行手続きなどもあわせて、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が分かりやすく解説していきます。
1、有償ストックオプションとは
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(1)有償ストックオプションとは新株予約権のこと
有償ストックオプションとは、「新株予約権」の一種です。「新株予約権」とは、予約券を発行した株式会社に行使することで、当該会社の株式の交付を受けることができる権利のことです(会社法第2条21号)。
このような新株予約権は、「権利」として行使してもしなくてもよいため、「選択権(オプション)」と表現されています。
権利行使の際に払込み金額よりも市場価格が高ければ、購入時と売却時の差額によって権利者に利益が発生することになります。そのため新株予約権は、「将来的に株価が権利行使時の金額を上回る可能性がある」という点で、保有する動機が発生することになるのです。
以上より、新株予約権とは、将来的に利益を獲得できる可能性がある金融商品であると考えることができます。 -
(2)有償ストックオプションの活用例
たとえば、優秀な技術や将来性のあるベンチャー企業であっても、立ち上げ時から優秀な人材を確保することは難しく、十分な資金調達ができるとも限りません。
そこで有償ストックオプションを発行し、従業員に対して自社の株式を購入できる権利(新株予約権)を与えることで人材獲得を目指す事例やケースがあります。
たとえば、例のように有償ストックオプションを発行すれば、従業員は以下の流れで利益を得られる可能性があります。有償ストックオプションの活用例- 従業員に1株あたり100円で購入する権利(行使価額100円)を付与
- 市場価格が2000円となれば、1株あたり100円で株式を買って市場で売却
- 1株あたり1900円の利益が出る
もし合計で1万株の新株予約権を与えていた場合、この従業員は合計で1900万円の売却益を得られることになるのです。
このように、有償ストックオプションは優秀な人材が入社する動機になり得ると同時に、将来の株価の値上がりのためにも会社の業績向上に貢献したいというインセンティブがはたらくようになります。 -
(3)無償ストックオプションとの違い
有償ストックオプションとは、募集新株予約権1個と引き換えに金銭の払込みが必要となるタイプのストックオプションのことを指します。
これに対して、無償ストックオプションとは、新株予約権と引き換えに金銭の払込みが必要ではないタイプのストックオプションのことを指します。
2、有償ストックオプションのメリット
有償ストックオプションのメリットとしては以下のようなものを挙げることができます。
以下、詳しく説明していきましょう。
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(1)従業員の士気や忠誠心の向上に貢献する
有償ストックオプションには、新株予約権を保有している従業員の士気や忠誠心を向上させる効果が期待できます。
活用例でも説明したように、新株予約権を発行した会社の株価が上昇すると、権利者に直接利益が発生するという関係があります。そのため、有償ストックオプションを保有している従業員や役員は、会社の業績の向上に貢献しようというモチベーションが高まります。
また有償ストックオプションの場合には権利を取得するために金銭の払込みをしなければなりませんので、会社に一定以上在籍したいというモチベーションにもつながります。 -
(2)公開会社であれば取締役会決議で発行できる
株式の譲渡制限をしている非公開会社の場合には、新株予約権を発行するためには「株主総会特別決議」による議決が必要となります(会社法第238条2項、309条2項6号)。
しかし、株式の譲渡制限をしていない公開会社であれば、原則として「取締役会決議」限りで新株予約権の発行を決定することができます(会社法第240条1項、238条2項)。
このように、公開会社であれば募集事項の決定機関が取締役会となっているため、機動的に有償ストックオプションを発行することが可能になります。 -
(3)社外の第三者にも付与することができる
有償ストックオプションであれば、会社の役員や従業員以外の第三者に対しても新株予約権を付与(第三者割当)することができます。
第三者割当をすることで、特定の割当先による支配力強化を防ぐと同時に、会社の資金調達も行うことができます。 -
(4)税務上の負担が軽減される
無償ストックオプションの場合、税務上労働の対価として付与された給与所得となり、課税対象となるケースがあります。
これに対して、有償ストックオプションの場合には、適正な時価で購入されている限り、経済的利益は発生していません。そして、当該ストックオプションの行使時の経済的利益、すなわち値上がり益は所得税法上課税対象とはされていません。
そのため、ストックオプションを行使して取得した株式を売却し譲渡益がある場合のみ、株式譲渡益課税の対象となるのです。
このように、有償ストックオプションは、無償ストックオプションと比較して権利者の税負担が軽減される可能性があります。
3、有償ストックオプションのデメリット
有償ストックオプションのデメリットとしては以下のようなものを挙げることができます。
利用する前には、必ず把握しておきましょう。
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(1)金銭の払込みが必須である
有償ストックオプションは、無償ストックオプションとは異なり払込金額の払込みが必須となっています。
したがって、会社が役員や従業員を対象にストックオプションを付与したいと考えても、対象者が払込金額を準備できない場合には利用することができません。
このような場合には、払込金額を株価よりも大幅に低く設定するという方法が考えられますが、不公正な払込金額で新株予約権を引受けた場合、引受けた者に、当該払込金額と当該新株予約権の公正な価額との差額を支払う責任が生じるおそれがあります。 -
(2)必ずしも行使できるとは限らない
有償ストックオプションは、払込金額を低額にするために行使条件を設定することがあります。しかし、この行使条件が厳しすぎると、権利行使ができず、結果として経済的な利益を受けることができなくなってしまいます。
また、会社の業績や株価は必ずしも上昇するとは限らず、当該株式の市場価値が著しく低下した場合にも、値上がり益というメリットを得ることができなくなってしまいます。
4、有償ストックオプションを発行する際の手続き
有償ストックオプションを発行する際には、以下のような流れで、募集新株予約権の発行手続きを踏む必要があります。
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(1)募集事項の決定
新株予約権について、以下のような募集事項を決定しなければなりません(会社法第238条1項)。
- 募集新株予約権の内容と数
- 募集新株予約権の払込金額とその算定方法
- 募集新株予約権の割当日(申込者が新株予約権者となるべき日として機能するため、金銭の払込みの有無にかかわらず定める必要があります。)
- 募集新株予約権と引き換えにする金銭の払込みの期日
このような募集事項の決定機関について、非公開会社の場合には「株主総会特別決議」が必要となりますが、公開会社の場合には「取締役会」で決定することができます。
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(2)募集事項の通知・公告
公開会社が取締役会の決議によって募集事項を定めた場合には、割当日の2週間前までに、株主に対して当該募集事項を通知または公告しなければなりません(会社法第240条2項)。
なお、非公開会社の場合には、募集事項の通知・公告は不要です。 -
(3)新株予約権の申込み・割当
株式会社は募集新株予約権の引受けの申込みをしようとする者に対して、以下の事情を通知します。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 新株予約権の行使に際して金銭の払込みの取扱い場所
そして、募集に応じて募集新株予約権の引受けの申込みをする者は、以下の事項を記載した書面を株式会社に交付しなければなりません。
- 申込みをする者の氏名・名称・住所
- 引き受けようとする募集新株予約権の数
株式会社は、申込者の中から募集新株予約権の割当てを受ける者と、その者に割り当てる募集新株予約権の数を決定しなければなりません。そして、新株予約権の申込者は、割当日に新株予約権者となります。
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(4)引受人による払込価額の払込み
金銭の払込みを要する場合には、当該新株予約権を行使することができる期間の初日の前日、または期日までに全額を払い込まなければなりません。払込期日までに払込みをしないときは、新株予約権を行使することができなくなります。
新株予約権者がその有する新株予約権を行使することができなくなったときは、当該新株予約権は消滅します(会社法第287条)。 -
(5)新株予約権の管理
株式会社は、新株予約権の発行した日以後遅滞なく、「新株予約権原簿」を作成して以下の内容を記載する必要があります。
- 新株予約権者の氏名・名称・住所
- 新株予約権の内容・数
- 新株予約権を取得した日
- 証券発行新株予約権の場合には、証券番号
新株予約権原簿は本社で管理し、開示請求があった際にも提示できるよう備えておきましょう。
5、ストックオプション導入のご相談について弁護士ができること
ストックオプションの導入を検討している場合には、企業法務の実績がある弁護士に相談されることをおすすめします。
ストックオプションについては、会社法上の規定を適切に履行して発行しなければならず、規定に違反した場合には、手続きのやり直しが生じたり、手続きが無効とされたりするリスクがあります。
会社法上の手続きについての知識や経験を有している弁護士に依頼することで、スムーズに発行手続きを進めていくことができます。また、税理士などと連携している弁護士事務所に相談すれば、税務上の問題についても同時に解決することができるでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、企業法務の実績がある弁護士はもちろん、税理士や司法書士も在籍しています。また、月額3980円からの顧問弁護士サービスもご用意していますので、まずはお気軽にご相談ください。
6、まとめ
この記事では、有償ストックオプションの概要から、そのメリット・デメリット、発行手続きについて解説しました。
ストックオプションの発行には、法定の手続きから税務まで複雑な問題が絡んできます。発行や管理について、少しでも不安を感じる場合には、税理士との連携でワンストップサポートが可能なベリーベスト法律事務所 町田オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています