カスハラを通報したら逮捕してもらえる? 企業ができる対策
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顧客や取引先からの理不尽な要求や悪質ないやがらせは「カスタマーハラスメント(カスハラ)」として、社会的に問題視されるようになっています。
カスハラに対応する労働者は多大なストレスや精神的苦痛を受ける場合もあり、ときには退職を余儀なくされることもあります。優秀な人材が悪質なカスハラによって失われてしまうと企業としても大きな損失となりますので、しっかりと対策を講じることが大切です。
本コラムでは、カスハラに関して企業ができる対策などについて、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。
1、クレームとカスタマーハラスメントの違い
まず、顧客や取引先からの「クレーム」と、「カスタマーハラスメント」の違いを解説します。
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(1)カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先からの理不尽や要求や悪質ないやがらせなどをいいます。
略して、「カスハラ」と呼ぶこともあります。
たとえば、以下のような行為はカスハラに該当する可能性が高いといえるでしょう。- 企業の提供するサービスや商品に問題がないにもかかわらず金銭補償を要求する行為
- 企業の提供するサービスや商品とは関係がない要求をする行為
- 従業員に対して威圧的な言動を行ったり土下座等を要求したりする行為
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(2)カスハラとクレームは何が違うのか?
カスハラと似た言葉として「クレーム」があります。
クレームとは、顧客や取引先からの商品やサービスに対する不満や要求などを指します。
商品やサービスなどの改善を求める正当なクレームであれば、業務改善や新たな商品開発につながるため、企業にとっても有益なものといえます。
しかし、クレームのなかには、過剰な要求をしたりサービスや商品に不当な言いがかりをつけたりするなどの不当なものもあります。
不当なクレームについては、カスハラに含まれるといえるでしょう。
2、カスハラ被害を受けたとき企業がすべきこと
カスハラの被害を受けた場合、企業としては以下のような対応をとる必要があります。
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(1)事実確認
顧客や取引先からクレームを受けた場合には、それが正当なクレームであるか、カスハラであるかを判断するためにも、まずは相手の話を聞いて事実確認を行う必要があります。
その際には、反論や反発をすると相手の感情を逆なでするおそれがありますので、まずは、丁寧に話を聞くことが大切です。
相手によっては、きちんと話を聞いてくれたことに満足して、カスハラが止まる可能性もあるでしょう。
また、状況が正確に把握できていない段階では、非を認めて謝罪するような行動は避けて、謝罪するとしても「この度は、不快な思いをさせてしまい誠に申し訳ありません」など不快感を抱かせたことに限定して謝罪することも必要です。 -
(2)企業側に問題がある場合には謝罪や解決策の提案をする
顧客や取引先からのクレームを社内で検討・調査した結果、企業側にも落ち度のある正当なクレームであることが判明した場合には、すぐに謝罪と解決策の提案を行いましょう。
その際には、従業員がひとりで対応するのではなく、上司やクレーム対応担当者などと一緒に複数人で対応すべきです。 -
(3)悪質なカスハラについては毅然(きぜん)とした態度で対応する
顧客や取引先からのクレームのなかには、不当な要求や悪質な迷惑行為などのカスハラに該当するものもあります。
そのようなカスハラの被害に遭った場合には、相手の要求に従うのではなく、毅然とした態度で要求を拒否することが大切です。
それでも相手からの不当・悪質な要求が続くようであれば警察への相談も視野に入れて、カスハラの状況について録音や録画を行い、証拠を記録しましょう。
カスハラは以下のような犯罪に該当する場合もあるため、警察に通報することで、逮捕してもらえる可能性もあります。- 脅迫罪(従業員を脅迫して、恐怖を与えた場合)
- 強要罪(従業員に対して、理不尽な要求をした場合)
- 恐喝罪(従業員に対して、金銭を要求した場合)
- 威力業務妨害罪(迷惑電話を繰り返すなどして業務を妨害した場合)
- 不退去罪(退去を求めたにもかかわらず長時間居座った場合)
- 暴行罪(従業員に対して暴力を振るった場合)
3、離職を防ぐ! 五つのカスハラ対策
カスハラは、担当する労働者に多大なストレスや精神的苦痛を生じさせて、離職のリスクも高めてしまいます。
以下では、労働者の離職を防ぐためにも企業が検討すべき、カスハラへの対策を紹介します。
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(1)カスハラ対応マニュアルの作成
まず、労働者がカスハラを受けた際にもあわてず適切な対応がとれるようにするための、「カスハラ対応マニュアル」を作成することを検討してください。
カスハラにはさまざまなパターンがあるため、それぞれの状況に応じた対応を想定しておくことが望まれます。
また、従業員にアンケートをとるなどして、実際のカスハラの事例をまとめることもおすすめします。 -
(2)カスハラ対応ルールについての従業員への教育・研修
カスハラ対応マニュアルを作成しても、マニュアルの内容について従業員がきちんと理解していなければ、実際にカスハラに遭遇しても適切な対応をとれない可能性があります。企業としては、カスハラ対応マニュアルを従業員に周知するとともに、定期的な教育や研修の機会を設けることが大切です。
具体的には、従業員への教育や研修に、以下のような内容を盛り込むことをおすすめします。- カスタマーハラスメントとは
- カスタマーハラスメントの判断基準
- パターン別の対応方法
- 苦情対応の基本的な流れ
- 顧客などへの接し方のポイント
- 記録の作成方法
- 顧客対応での注意点
- ケーススタディー
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(3)相談対応体制の整備
カスハラの対応をしている従業員のなかには「このような対応で問題ないだろうか」などカスハラ対応に不安を抱いている人も少なくありません。
不安な状況で対応を強いられるのは、大きなストレスとなり、離職のリスクも高まってしまいます。
そのため、カスハラを受けた従業員が気軽に相談できるような相談窓口を設置したり、相談対応者を決めておいたりすることも必要になります。
相談窓口や相談対応者を設置しておけば、従業員から受けた相談を社内で共有して関係部署と連携するなどしてカスハラに適切に対処することができ、従業員のストレスも軽減されるでしょう。 -
(4)従業員への配慮の措置
カスハラに対応する従業員のストレスに配慮するため、定期的なストレスチェックを行い、もしメンタルヘルスに不調が認められる場合には産業医への相談を促すなどの対応をとりましょう。
またカスハラのなかには従業員への暴力を伴うものもあるため、現場での安全確保ができる体制の整備も必要になります。 -
(5)再発防止のための取り組み
実際に発生したカスハラ事案に対応するだけでは、今後も同様のカスハラが繰り返される可能性があります。
したがって、今後同様のカスハラが生じることを防止するためにも、実際のカスハラ事案を分析し、接客態度などの改善策を講じるなどの対策が必要になります。
再発防止の対策としては、社内でのトラブル事例の共有や定期的な勉強会の開催などが有効です。
4、カスハラ被害を受けたとき弁護士に相談するメリット
カスハラ被害でお困りの企業は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)カスハラ予防に有効な対策をアドバイスできる
カスハラが発生すると、対応する従業員には多大なストレスが生じます。
カスハラによる従業員の離職を防ぐには、カスハラの予防のための対策を講じることが重要です。
カスハラにはさまざまなパターンがあり、企業規模や事業内容によって必要な対策が異なってきます。
企業の実情に応じた適切な対策を講じるためには、法律の専門家である弁護士のアドバイスを受けることが最善です。
また、普段から相談できる顧問弁護士がいることで、企業の実情に即した有益なアドバイスが受けやすくなります。 -
(2)カスハラをする顧客対応を任せることができる
悪質なカスハラに関しては、従業員では対応することが難しいものもあります。
また、無理に従業員に対応を任せると、さらに要求がエスカレートしてしまったり、ストレスにより従業員が離職したりしてしまうなどのリスクも生じてしまいます。
このような悪質なカスハラ被害に遭った場合には、法律の専門家である弁護士に対応を委ねてください。
弁護士であれば、不当な要求に関しては会社として応じる義務がないことを、法的根拠を示しながら説得することができます。
また、カスハラをする相手としても、弁護士に対応されることで「不当な要求を続けるのは難しい」と感じて、カスハラを止める可能性が高いでしょう。
5、まとめ
悪質なカスハラが発生した場合には、警察に通報することで相手が逮捕される可能性もあります。
しかし、事件性のないケースでは、会社側が対応しなければなりません。
カスハラの対応に不安があるという企業は、まずは弁護士に相談してみましょう。
ベリーベスト法律事務所では、企業の規模やニーズに応じて料金を設定できる顧問弁護士サービスを提供しています。
カスハラ事案については、危機管理部門による対応も可能です。
カスハラにお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています