被害届を提出されたあとの流れ|窃盗なら警察が動かないのは本当か

2024年07月31日
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被害届を提出されたあとの流れ|窃盗なら警察が動かないのは本当か

警察庁が公表する統計データによると、令和4年中に町田警察署の所轄内で認知されている窃盗事件は1323件で、内355件が検挙されているとのことでした。このようなデータを見ると、「警察は被害届を出されても窃盗では動いてくれない」と思うかもしれません。しかし、窃盗事件のうち空き巣や自動車盗、ひったくりなどを含む重要窃盗犯のみに絞り込むと、東京都全体で2722件認知され、2489件検挙されていることが明らかになっています。

窃盗事件のほとんどは、被害者の届け出や通報によって発覚しますが、そこで作成されるのが「被害届」です。では、被害者が警察に被害届を提出すると、その後はどのように捜査が進むのでしょうか?

本コラムでは、窃盗罪の被害届が提出されたあとの流れや、被害届を取り下げてもらう方法などについて、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスの弁護士が解説します。


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1、「被害届」とは|提出された後の流れ

「被害届」とはどのような意味をもつ書類なのでしょうか?
提出後の流れとあわせて見ていきましょう。

  1. (1)「被害届」がもつ意味

    被害届とは、犯罪捜査規範第61条を根拠とする届け出のことをいいます。
    警察官に対して犯罪による被害を受けた事実を申告する際に作成されるもので、定まった様式が設けられています。

    被害届には、届出人の住居・職業・氏名・年齢などを記入する欄と、被害者の情報、被害の年月日時や場所、被害の模様、被害金品、犯人の情報、遺留品や参考事項などを記入する欄があります。
    犯罪捜査規範では、被害者自らが記入または警察官が代書するものと定められていますが、正確な場所、被害年月日時の幅、具体的で簡潔な被害の模様の説明など、不慣れだと作成が難しいので、被害者による記入を求めず、警察官が代書する運用が取られています。
    被害者が記入するのは、届出人の住居や氏名の欄だけです。

    被害届は「捜査の端緒(たんちょ)」のひとつとして位置づけられています。
    端緒とは「きっかけ」や「手がかり」といった意味であり、捜査が始まるきっかけとして活用されるのが被害届の意味です。
    つまり、被害届を受理したからといって、警察は捜査の義務を負うわけではありません

    このように説明すると、被害届を受理しても捜査をするかしないかは警察の判断に委ねられているかのように感じられます。
    しかし、理由なく被害届が出されることはほとんどありませんので、被害届が虚偽または著しく合理性を欠くものでなければ、通常は捜査が始まると考えておくべきでしょう。

  2. (2)被害届が提出された後の流れ

    被害届の提出を受けた警察は、捜査を進めて被疑者を特定します。

    被疑者を特定すると、尾行や張り込みによって、住所地に居住しているのか、車やバイクなどを使用しているのか、会社や学校に通っているのは間違いないのかなどを確認し、逮捕に踏み切る必要があるのかが検討されます。
    尾行や張り込みが進められるなかでさらに犯行を繰り返していたり、捜査の結果、余罪が判明したりすれば、逮捕されるおそれが高まるでしょう。

    一方で、定まった住居地で家族とともに生活している、会社や学校に真面目に通っているなど、逃亡・証拠隠滅のおそれがない場合は、逮捕されず在宅のまま任意捜査が進められる可能性があります

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2、窃盗罪で有罪になった場合の刑罰

窃盗罪は刑法第235条に定められている犯罪です。
万引き、置き引き、空き巣、車上ねらい、自販機ねらいなど、犯行の態様によってさまざまな手口に分類されていますが、すべて窃盗罪によって罰せられます。

では、窃盗罪に問われて有罪となった場合、どのような刑罰が下されるのでしょうか?

  1. (1)窃盗罪の法定刑

    窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

    • 懲役……刑務所に収監されて刑務作業を科せられる刑罰です。
    • 罰金……金銭徴収を受ける刑罰です。


    有罪判決が下されると、懲役か罰金のいずれかが科せられます。

    なお、窃盗罪は従来、経済的に苦しい状況から行う犯罪と考えられていたため、罰金の規定がありませんでした。
    しかし、近年ではスリルを求めての窃盗や病的に窃盗を繰り返してしまう「クレプトマニア」の存在もあり、必ずしも経済的に苦しい状況があるとはいえなくなったため、平成18年の刑法改正によって罰金が導入されています。

  2. (2)実際に下される量刑の判断基準

    窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役または50万円以下の罰金であり、実際の刑事裁判では法定刑の範囲内で事案に見合った量刑が下されます。

    窃盗事件における量刑判断の基準としては、次に挙げる要素が影響を与えるでしょう。

    • 被害額
    • 犯行の悪質性
    • 窃盗の常習性
    • 被疑者の前科・前歴
    • 被疑者の性格や環境
    • 反省の有無
    • 更生の可能性
    • 被害回復・弁済の有無
    • 被害者がもつ処罰感情の強さ

3、窃盗罪で逮捕された後の流れ

窃盗罪の被疑者として逮捕されてしまうと、その後はどのような流れで刑事手続きを受けるのでしょうか?

  1. (1)身柄拘束のうえで取り調べを受ける

    逮捕されると、その場で身柄拘束を受けて警察署の留置場に拘束されます。
    自宅へ帰ることも、会社や学校へ通うことも許されません
    携帯電話やスマートフォンは証拠品として差し押さえられるか、私物として留置担当官に預けることが多く、一切の通信はできなくなります。

    逮捕後は48時間を限度に取り調べが行われたうえで、被疑者の身柄と捜査書類が検察官へと引き継がれます。
    この手続きを「送致」といいます。ニュースなどでは「送検」とも呼ばれる手続きです。

    送致を受けた検察官は、さらに自らも被疑者を取り調べたうえで、被疑者の起訴・不起訴を判断します。
    ただし、まだこの段階では十分な取り調べが尽くされてはいないので、起訴・不起訴を判断する材料が足りません。
    そこで、検察官は「さらに身柄を拘束して取り調べる必要がある」として、裁判官に身柄拘束の延長を求めます。
    この手続きを「勾留請求」といいます。

  2. (2)検察官が起訴・不起訴を判断する

    裁判官が勾留を認めると、最長20日間まで身柄拘束が延長されます。
    この期間は、検察官の指揮を受けながら、警察が被疑者の身柄を受け持ち、取り調べを継続することになります。
    検察官は、警察の捜査結果や自らの取り調べ状況と照らして起訴・不起訴の最終判断を下します

    検察官が起訴すれば被疑者の立場は「被告人」へと変わり、刑事裁判への出廷を確保するためにさらに勾留を受けることが多いです。
    この場合、保釈が認められない限り、刑事裁判が終わる日まで釈放されないことが多いです。

    一方で、検察官が、被疑者の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の状況などを考慮して、裁判までする必要がないと判断すれば不起訴処分となります。
    刑事裁判の場で審理されることはないので、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。

  3. (3)刑事裁判で刑罰が下される

    刑事裁判では、警察が押収した証拠や被告人・参考人の証言をもとに、裁判官が有罪・無罪を審理します。
    有罪の場合は、さらにどの程度の刑罰が適当であるのかが検討され、量刑が下されます。

    わが国の司法制度では、検察官が起訴に踏み切った事件の有罪率は99%を超えています
    実際に窃盗をした事実があれば、無罪判決を期待するのは現実的ではありません。

    なお、窃盗事件では、被疑者が罪を認めており、あらかじめ被疑者の了承が得られている場合に限って「略式手続」が採用される可能性があります。
    略式手続によって起訴されると、公開の裁判は開かれません。
    書面のみで迅速に審理され、必ず罰金が下されます。
    被告人としての長い勾留が避けられたうえで懲役を回避できるという意味では有利な手続きですが、必ず有罪となって前科がついてしまうことは覚悟しなくてはなりません。

4、被害届を取り下げてもらう方法|取り下げで得られる効果

被害者によって被害届が取り下げられれば、情状によっては不起訴になる可能性が高くなります。
では、どうすれば被害届の取り下げが期待できるのでしょうか?

  1. (1)被害者との示談交渉を進める

    窃盗罪は、被害者の金品を窃取する犯罪です。
    つまり、窃取した金品そのものを返却、またはそれに相当する金銭を弁済すれば、被害者の実質的な損害はなかったことになります。

    被害者と話し合うテーブルとして示談交渉の場を設けて真摯に謝罪し、被害の弁済を尽くせば、被害届の取り下げが実現する可能性も高まるでしょう
    ただし、窃盗事件の被害者は、加害者に対して強い怒りの感情を抱いているケースも少なくありません。
    加害者本人やその家族が示談交渉を持ちかけても取り合ってもらえないおそれがあるので、交渉は公平中立な第三者である弁護士に一任するのが最善でしょう。

  2. (2)不起訴処分を得られる可能性が高い

    被害届が取り下げられれば、検察官が裁判までする必要がないと判断して不起訴処分が下される可能性が高まります。
    逮捕・勾留による身柄拘束からの釈放や刑罰の回避が実現するので、窃盗罪の容疑をかけられてしまったら不起訴処分の獲得を目指すべきです

  3. (3)刑罰が軽くなる可能性も高い

    また、検察官が起訴に踏み切った場合でも、示談が成立して被害届が取り下げられれば被告人にとって有利な事情として扱われます
    刑罰が軽減され、執行猶予つきの判決が下される可能性も高まるでしょう。

5、まとめ

窃盗事件は、被害者が被害届を提出することで捜査が始まります。警察の捜査が進展すれば、被疑者として特定され、逮捕・勾留されてしまい、刑事裁判で審理されて刑罰を下されることになるでしょう。

身柄拘束や厳しい刑罰を避けるためには、被害者との示談交渉を進めて被害届の取り下げを求めるのが最善策です。窃盗罪の容疑をかけられてしまったら、ただちに被害者との示談交渉などを進めるためにも弁護士へ相談されることをおすすめします。

窃盗事件の容疑をかけられてしまったときは、ベリーベスト法律事務所 町田オフィスにお任せください。刑事事件専門チームの弁護士が事情や自体の詳細を伺った上で、事件解決までを全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています