遺言書の内容に納得できない! 確認すべきポイントや対処方法を解説
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自分の親が亡くなった際、「すべての遺産を愛人に渡す」という遺言書が見つかれば家族は到底納得できないでしょう。
「遺言書は偽物ではないか」「誰かに書かされたのではないか」「この内容に従わなければいけないのか」いろいろな思いがめぐるはずです。
では遺言に不満がある場合、相続人はどのように対処したらいのでしょうか? 被相続人の本心ではないと思われる場合は無効にできるのでしょうか? 大事なポイントをわかりやすく解説します。
1、遺言書に不満がある場合にまず確認すべきこと
遺言書は故人の意思であり、遺産相続ではその内容が最大限尊重されます。ですが内容に不満がある場合には、相続にはまず次の点を確認し、遺言書の内容通りに相続手続きを進めるべきかどうか判断しましょう。
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(1)自筆証書遺言が有効か無効か
遺言書には複数の形式がありますが、自筆証書遺言が一番手軽で費用もかからないため、利用されやすい傾向にあります。
ただ作りやすい反面、偽造や変造のおそれは高くなります。
そこで自筆証書遺言は形式が厳格に定められており、反した場合には無効です。
自筆証書遺言が有効となる条件は、主に以下のようなものです(民法第968、975条)。- 遺言者が自筆で全文を書いた(財産目録はパソコン作成可)
- 作成日付、署名、押印がある
- 訂正箇所には本人による変更の旨の記載と署名・押印がある
- 一通に2人以上の遺言が書かれていない(夫婦で共同作成など)
また遺言書の変造を防ぐため、自筆証書遺言が見つかったら開封する前に必ず家庭裁判所に検認をしてもらわなければいけません。
ただし、遺言書保管制度を利用して遺言書が法務局に保管されていた場合には検認は不要です。 -
(2)公正証書遺言が有効か無効か
公正証書遺言とは、遺言者が遺言内容を口頭で公証人に伝え、その内容を文書にしてもらったものです。
費用はかかりますが公証人が作成してくれるため様式に不備になる心配がなく、原本が公証役場で保管されるため偽造を防ぐことができ、検認も不要です。
ただし作成の際には、2人以上の証人が必要です。
未成年者、推定相続人やその配偶者などは証人になれないため、これに該当する方が証人になっていた場合には無効です(民法第974条)。 -
(3)遺言執行者が指定されていないか
遺言執行者とは相続開始後、被相続人に代わって遺言内容を具体的に実行する人のことです。
遺言書で遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は遺言に従って相続を進めなければならず、相続人はそれを妨げることはできません。
そのため遺言書と異なる分割をするのは難しいでしょう。
ただし相続人全員が望む場合には、遺言執行者の同意を得たうえで遺言内容とは違う分割もできます。 -
(4)遺言能力があったか
被相続人の自筆で遺言書が書かれ、日付や署名・押印があったとしても、本人が自分の意思で書いたかどうか疑わしい場合には無効になる可能性があります。
たとえば被相続人の認知症が進行し、判断能力が低下していた場合です。
相続人の一人にそそのかされて、その相続人の有利な内容にしたかもしれません。
病気などにより遺言能力がなかったと認められる場合には、その遺言書は無効です。 -
(5)公序良俗に違反していないか
被相続人の意思であっても、遺言内容が公序良俗に違反している場合には、無効になる可能性があります。
たとえば「不倫関係を継続する目的で、不貞相手にすべての遺産を渡す」といった内容です。
また誰かから脅されたりだまされたりしていた場合、重大な勘違いがあった場合にも、被相続人の意思を反映しているとはいえないため、無効になることがあります。
2、遺言書があっても遺産分割協議をすることは可能
遺産相続では遺言書がある場合は、その内容に従って分割を行います。ただし遺産分割協議で合意が得られた場合には、それとは異なる分割をすることも可能です。
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(1)遺産分割協議とは?
遺産分割協議とは、遺産の分割に関する話し合いのことです。
法定相続人全員が遺言書と異なる分割を望んだ場合やそもそも遺言書が残されていなかった場合、一部の相続財産にしか指定がなかった場合などに行われます。
原則として相続人全員の参加が必要で、合意内容は遺産分割協議書にし、その内容にそって分割をします。 -
(2)成立には相続人全員の合意が必須
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しません。
そのため法定相続人のうち一人でも反対した場合には、協議は成立しません。
一部の相続人を除いて協議をした場合や、後から新たに相続人が見つかった場合には、協議をやり直さなければいけません。
3、遺産の分け方が不平等な場合は遺留分侵害額請求
遺産を一人にすべて渡すなど、内容が偏った不平等な内容であった場合には、法定相続人の遺留分が侵害されているおそれがあります。その場合は遺留分侵害額請求をすることで、その相続人は遺留分に相当する金額を受け取ることができます。
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(1)遺留分侵害額請求とは
遺留分とは、いわば法定相続人に認められた相続財産の最低保障分のことです。法定相続分とは割合が異なります。
遺言で一部の相続人に多く分配するように、また相続人以外の方に遺産を渡すように指定されている場合、相続人の遺留分が侵害されている可能性があります。
その場合は「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」をすることで、侵害分を受け取ることができます。
遺留分は被相続人の配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(親や祖父母)に認められており、割合は直系尊属のみが相続人である場合には1/3、それ以外の場合は1/2です。
なお兄弟姉妹は対象外です。 -
(2)遺留分の請求方法
遺留分は遺産の多くを受け取り、遺留分を侵害した相手に請求します。
遺留分侵害額請求は、次のような流れで進めます。- ① 相手との話し合い
- ② 内容証明郵便で請求
- ③ 家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
- ④ 裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を起こす
なお遺留分侵害額請求には「相続開始または遺留分の侵害を知った日から1年以内」または「相続開始から10年以内」という時効があります。
これを過ぎた場合には請求できなくなるので、注意してください。
4、遺言書に不満があり、相続人同士の話し合いが進まない場合
遺言で指定された分割方法に不満がある場合には、遺産分割協議で解決をはかることができます。ですが協議でもめて話が進まない場合には、次のような方法をとりましょう。
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(1)遺産分割調停・審判
話し合いで遺産分割に合意できなかった場合には、家庭裁判所への調停申し立てができます。
調停では調停委員が当事者それぞれから話を聞き、解決のアドバイスをします。
内容に合意できた場合には調停が成立し、合意内容を「調停調書」にします。
調停調書は裁判の判決と同様の効力があり、相続人は調停調書にそって分割を進めていかなければいけません。一部の相続人がそれに従わない場合には、強制執行も可能です。
調停で合意できなかった場合は審判に移行します。
審判では家庭裁判所が相続財産の内容や相続人の事情をもとに分割を決め、審判書を出します。調停と異なり、相続人の合意は不要です。 -
(2)遺言無効確認調停・裁判
「被相続人が重度の認知症だった」「被相続人以外の誰かが介入した形跡がある」「遺言書が自筆でないとみられる」といった場合、遺言書が被相続人の意思をきちんと反映していない可能性があります。
その場合には、家庭裁判所に「遺言無効確認の調停」を申し立てましょう。遺産分割調停と同様に、調停委員が当事者から話を聞いて解決を図ります。
調停が不成立の場合には、裁判所に「遺言無効確認訴訟」を起こすことができます。裁判で認められれば、遺言書は無効です。
裁判をする場合には、遺言書が法律で定められた様式に反していることや、本人の意思を反映していないこと、筆跡が違うことなどを示す証拠が不可欠です。 -
(3)まずは弁護士に相談
遺言書をめぐって相続人同士で争いになった場合には、話し合いで解決することが望ましいといえます。
ただし分割内容に不満であったり、相続人間に不信感があったりする場合には、スムーズにはいかないでしょう。
またそもそも遺言書が無効であると疑われる場合には、まず筆跡鑑定をして調べるなどして遺言書の有効性を確認しなければいけません。
こういった手続きや争いの解決には、法律の専門家である弁護士の力が必要です。
相続に詳しい弁護士であれば、遺留分の計算や分割方法の提案、遺産分割協議書の作成など、知識面と手続き面であらゆるサポートをしてくれます。
調停や裁判になった場合にも法的手続きに精通しているため、書類の作成や証拠収集などを安心して任せられます。
5、まとめ
故人の意思が記された遺言書は尊重されるべきものですが、内容が偏っていたり、無効の可能性があったりする場合には争いの火種となります。遺言書をめぐるトラブルは、法律に詳しくない方々だけでは簡単には解決できません。
ベリーベスト法律事務所 町田オフィスでは、遺言書など相続に関するあらゆる問題の解決をサポートしております。争いが複雑化する前に、まずはご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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