法定相続人なのに遺産をもらえない!最低限の取り分をもらうには?
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自分も法定相続人の1人のはずなのに、遺産をもらえないというケースは珍しくありません。遺産相続はもともと遺族に対する生活保障の意味合いもあるものなので、遺産をもらえないとなると生活に困る方もいるでしょう。
相続権はあるのに遺産がもらえない場合でも、請求すれば最低限の遺産の取り分がもらえるケースがあります。そのための方法や注意点について、町田オフィスの弁護士が解説します。
1、法定相続人なのに遺産がもらえないケースとは?
法定相続人であれば、原則として遺産相続がもらえるはずです。しかし、被相続人の意思や共同相続人のうちの一人の意思しだいで、法定相続人でも遺産がもらえないことがあるのです。遺産がもらえないのは、どのような場合なのでしょうか。
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(1)「○○にすべて遺産を相続させる」との遺言書があるケース
「長男にすべて遺産を相続させる」など、相続人のうち特定の一人のみに遺産を相続させる旨の遺言書が見つかるケースがあります。現代は家父長制ではありませんが、被相続人の強い希望により、このような遺言書が作成されることは珍しくありません。しかし、そうなると、他に法定相続人がいる場合はそれぞれの取り分がもらえず、身内で相続争いが起こる可能性があります。
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(2)「○○にすべて遺産を遺贈する」との遺言書があるケース
被相続人の介護を一手に引き受けていた介護士など、法定相続人にはあたらないものの献身的に被相続人を支えていた人物に対して遺産をあげたいとの遺言書を残す方もいます。また、被相続人に実は愛人がいて、その「〇〇(愛人)に遺産をすべて遺贈したい」という遺言書が見つかり、遺族がおどろくケースもあります。このように法定相続人以外の人物にすべて遺産を遺贈するとの遺言書が見つかると、受遺者となる方と法定相続人がもめることが多いでしょう。
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(3)生前贈与があった場合
被相続人の生前、結婚資金や孫の教育資金、住宅購入資金の援助と称して多額の生前贈与を受ける方も少なくないでしょう。この場合、生前贈与されていた金額やタイミングによっては遺産がもらえなくなることがあります。
ただし、一部の相続人や第三者が生前贈与を受けていても、取り戻せる可能性のあるケースがあります。それは以下の場合です。- 相続開始前1年以内の生前贈与
- 被相続人と受遺者の双方が遺留分を侵害すると知っていて行った生前贈与
- 相続開始前10年以内になされた、相続人の特別受益(住宅購入資金、婚姻の際の持参金など)となる生前贈与
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(4)「母の面倒を見るから」ときょうだいが遺産をひとり占めしてしまった場合
きょうだいの一人が「自分が母の面倒を見るから」と言って、遺産をすべて独り占めした場合、ほかに法定相続人がいても相続財産がもらえない可能性があります。その場合、財産に何がどれくらいあるのかを教えてもらえないことが多い上に、財産をいつのまにか使い込んでしまうおそれもあります。
2、遺産がもらえないときに相続人ができること
遺言の内容やほかの法定相続人によって遺産がもらえないときに、相続人にできることは、主に2つあります。遺留分を主張することと、遺言が無効であることを主張することです。
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(1)遺留分を主張する
ひとつめは、遺留分を主張することです。遺留分とは、最低限保障される遺産の取り分のことです。兄弟姉妹以外の法定相続人は、この遺留分が侵害された場合、遺留分を侵害した相手に対して遺留分を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。以前は「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが、令和元年7月施行の改正相続法により「遺留分侵害額請求権」へと名称が変わりました。
遺留分はもともと遺族の生活保障のためにある制度です。原則として自分の財産は死後好きなように分配できるのですが、遺された家族が遺産をあてにしていた場合、遺産がいきわたらなければたちまち生活に困ってしまいます。遺産が特定の法定相続人に集中してしまったり、法定相続人に遺産が全く相続されないような場合に、法定相続人には遺留分として認められる遺産の取り分を請求する権利があります。そうすれば、侵害されている遺留分を取り戻すことができるのです。 -
(2)遺言が無効であることを主張する
特定の誰かに遺産を相続させる、もしくは遺贈させるとの遺言書が見つかった場合、遺言が無効であることを主張する方法もあります。たとえば、自筆証書遺言の場合、法律上の形式要件を満たしていないことが考えられるでしょう。また、被相続人が認知症だった場合、遺言書を執筆した時点ですでに認知症の症状が出ており、自分の意思で遺言書が書けなかったかもしれません。そのような可能性があることを証明できれば、遺言が無効となり、遺産分割協議をひらいて法定相続分を得られる可能性が高くなります。
3、法定相続分と遺留分の違いとは?
これまでに、「法定相続分」と「遺留分」というキーワードが出てきましたが、それぞれどのようなものなのでしょうか。ここでは、両者の違いについて簡単に説明しておきたいと思います。
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(1)法定相続分とは
法定相続分とは、民法で定められた遺産の取り分のことをいいます。
まず、民法上法定相続人となれるのは、相続順位の順番でいうと①子②父母③兄弟姉妹です。子や兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、それぞれ孫・甥姪が相続人となります(代襲相続)。子も孫も先に亡くなっている場合には、ひ孫が相続人となります(再代襲相続)。配偶者は常に法定相続人となります。
そして、法定相続分は、民法で以下のとおり定められています。- 配偶者のみの場合:配偶者が100%
- 配偶者と子ども(または孫・ひ孫)の場合:配偶者 1/2、子ども(または孫・ひ孫)1/2
- 配偶者と父母の場合:配偶者2/3、父母1/3
- 配偶者と兄弟姉妹(または甥姪)の場合:配偶者3/4、兄弟姉妹(または甥姪)1/4
なお、配偶者以外の人物が複数いる場合は、原則として人数に応じて均等に配分することになります。たとえば、配偶者と子3人がいる場合は、配偶者1/2、子ら各1/6(1/2をさらに3で割った割合)となります。
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(2)遺留分とは
遺留分とは、先述のとおり遺産の最低限の取り分のことを指します。法定相続分と遺留分との違いは、大きく分けて2つあります。
ひとつは、遺留分は法定相続分の1/2(ただし、父母のみが相続人の場合は1/3)であるという点です。したがって、各法定相続人の遺留分は以下のようになります。- 配偶者のみの場合:配偶者が1/2
- 配偶者と子どもの場合:配偶者 1/4、子ども(または孫・ひ孫)1/4
- 配偶者と父母の場合:配偶者2/6、父母1/6
- 配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者1/2
もうひとつは、遺留分が兄弟姉妹には認められていないことです。遺留分とは、遺された家族に対する生活保障の意味合いがあると先ほども解説しましたが、たとえば一家の大黒柱である父親が亡くなった場合、妻と子どもが働いていなければたちまち生活基盤を失います。また、親が同居していた場合も、息子が稼いでいた生活費が入ってこなくなることにより、路頭に迷う可能性があるのです。一方、兄弟姉妹は独立してそれぞれ家庭を持っていることが多く、たいていの場合兄弟姉妹に対する生活保障は必要ないと考えられていることから、兄弟姉妹には遺留分が認められていないのです。したがって、兄弟姉妹の子どもである甥姪にも遺留分はありません。
ほかにも以下のいずれかに該当する場合は、遺留分の対象外となります。- 相続欠格になった者
- 相続廃除された者
- 相続放棄した者
4、遺留分侵害額請求の流れと注意点
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(1)遺留分侵害額請求の流れ
遺留分侵害額請求は以下のような流れで進みます。
①遺留分侵害額請求の内容証明郵便を送る
まず、遺留分が侵害されているため、侵害されている金額の請求をする旨の文書を作成し、内容証明郵便で送付します。
内容証明郵便とは、だれがいつどのような文書をだれ宛に送ったのかを郵便局が証明してくれるものです。相手方に確実に届いたことを示すには、配達記録付きの内容証明郵便にすることが必要です。内容証明郵便にかかる費用は、文書の枚数にもよりますが、おおむね1000~2000円程度です。
②相手方と交渉
次に、遺留分の侵害額を返還してもらえるよう相手方と交渉します。返還してほしい旨のみならず、返還してもらえるなら具体的にいつ返還してもらえるのか、返還期日についても決めましょう。両者の話合いがついたら、後日の「言った」「言わない」のトラブルを防ぐために合意した内容を合意書にまとめます。
③家庭裁判所に調停(遺留分侵害額の請求調停)を申し立てる
両者の協議が調わなければ、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停では、裁判官1名と民間の有識者・弁護士等2名から構成される調停委員会に当事者が交互に主張を述べ、解決策を探ります。調停が成立すれば、調停調書が作成されて終了となりますが、調停不成立となった場合は訴訟を提起する必要があります。
④遺留分侵害額請求訴訟を起こす
調停不成立となった場合、遺留分侵害額請求訴訟を提起します。訴額が140万円を超えるなら地方裁判所、140万円以下なら簡易裁判所に提起します。家庭裁判所から通知を受けた日から2週間以内に訴訟提起すれば、訴訟提起に必要な印紙の金額から、調停申立時に納めた金額を差し引いてもらえます。
第1回期日までに訴えたい内容と証拠資料を裁判所に提出すると、相手方に書類のコピーが送付されます。その後、期日で主張と反論を繰り返し、最終的に裁判所が判決を下します。なお、途中で裁判官が和解を勧告して当事者双方が納得すれば和解が成立することもあり、その場合は和解調書が作られて終了となります。 -
(2)遺留分侵害額請求の注意点
遺留分侵害額請求を行うときには、以下の3つの点に注意が必要です。
①取り戻せるのは金銭のみ
令和元年6月30日までは、遺留分減殺請求として現物の返還を請求することも可能でした。しかし、相続法が改正された以後は、遺留分侵害額請求の場合、相手方に請求できるのは原則として金銭のみとなりました。したがって、不動産などの現物の返還を請求することはできません。ただ、当事者双方が合意すれば、金銭以外のものでも返還が可能です。
②特別受益の対象となる生前贈与に期限がある
相続法改正以前は、特別受益となる生前贈与に期限は設けられていませんでした。しかし、相続法改正により、特別受益は相続開始前10年以内になされた生前贈与に限定されたので注意が必要です。
③遺留分侵害額請求には時効がある
遺留分侵害額請求はいつまでもできるわけではありません。遺留分が請求できるのは、相続開始と遺留分を侵害する遺言・贈与を知ってから1年間です。1年以内に請求していれば、実際に返還を受ける時期が1年を超えても問題ありません。また、知らなかった場合でも、相続開始後10年経つと、除斥期間として請求できる権利が消滅してしまいます。
5、まとめ
被相続人が亡くなった後は「遺産がもらえる」と思っていたのに、相続がはじまってから遺産がもらえないことが発覚したら、たちまち生活に困ってしまうでしょう。
ベリーベスト法律事務所 町田オフィスでは、遺産相続がはじまったのに遺産がもらえないことが発覚してお困りの方のご相談を受け付けております。遺産相続の経験豊富な弁護士がご相談に応じますのでお気軽に当事務所のオフィスまでお越しください。
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