事故で高次脳機能障害と診断された! 後遺障害等級と受け取れる金額
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交通事故に遭遇し、頭部を強くぶつけたあと、幸い身体の障害もなく回復したにもかかわらず、正確が事故前から一変してしまったり、物覚えが悪くなったり、計算ができなくなってしまったりということがあります。その場合には、「高次脳機能障害」が疑われます。
高次脳機能障害になった場合、外見的な変化は見られませんが、社会的適応性が低下した状態となり、事故前と同じ生活を送ることが難しくなる場合があります。
交通事故後、被害者である高校生の男子に、物忘れ、怒りやすくなるなどの症状が残存したことについて高次脳機能障害と認め、後遺障害等級5号に該当すると判断した事案もあります。
それでは、交通事故による高次脳機能障害と診断された場合には、どのような補償が受けられるのでしょうか。
1、交通事故で起こりうる高次脳機能障害とは
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(1)高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、交通事故などで脳が損傷されることによって引き起こされる、認知障害や人格変化などのことを指します。
交通事故による頭部外傷の被害者において、開頭手術に至らず、視覚、聴覚の感覚機能や手足の運動機能に大きな障害が認められないにもかかわらず、大脳の機能(高次脳機能)に障害が認められ、社会適合性を大きく欠く症状が出ることがあります。
例えば、頭部外傷以外のケガは完治し、体も普通に動かしたりできるにもかかわらず、記憶力が悪く、仕事の要領が覚えられず、すぐにキレてしまって仕事が続かず、家庭内にあっても家族を困らせる状況に陥ったりすることがあるのです。
つまり、外見上の身体的な変化は見られない、あるいは見られたとしても軽度なものですが、脳の機能に支障が出て、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害がある状態を、高次脳機能障害と呼びます。 -
(2)高次脳機能障害が疑われる症状
- なめらかにしゃべれない、字の読み書きができない
- 作業にミスが多い、気が散りやすい
- 物忘れがひどくなる、今見聞きしたことを記憶できない
- 気分が沈みがち、あるいは興奮しやすく怒りっぽい
- 人の顔が分からない、見分けられない
- 判断力の低下、計画的な行動や複数の行動ができない
2、後遺障害の等級認定の方法は?
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(1)後遺障害等級とは
症状固定後に残った症状を、「後遺障害」といいます。
症状固定とは、治療を継続しても症状の改善が見込めない状態をいいます。
自動車損害賠償保障法施行令別表第1、2において、後遺障害について、その部位・度合いごとに14等級に分けて規定されています。
等級ごとに、自賠責保険からおりる保険金額や、加害者側に請求できる慰謝料額等が異なります。等級が高ければ高いほど、金額が大きくなります。等級が一つ違えば、賠償額が数百万、数千万円単位で変わることもあるので、後遺障害等級は非常に重要となります。
後遺障害が残った場合、障害の程度(後遺障害等級)に応じて逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することができますが、その前提として、後遺障害認定の申請をして、後遺障害等級認定を受ける必要があります。後遺障害等級の認定手続きは、症状固定後に、損害保険料率算出機構における自賠責損害調査事務所というところで調査・審査が行われます。 -
(2)等級認定の2つの方法
交通事故被害者が後遺障害等級認定を行う方法としては、①自分で直接自賠責保険会社に申請する方法(これを「被害者請求」といいます。)と、②加害者側が契約する任意保険会社を通じて等級認定を受ける方法(これを「事前認定」といいます。)があります。
任意保険会社に後遺障害等級の事前認定を依頼する場合、被害者の方は、医師に後遺障害診断書を書いてもらい、任意保険会社に提出するだけで手続きは終了です。あとの手続きは、資料収集も含め、すべて任意保険会社が行います。
これに対して、被害者請求の場合、必要書類(自動車損害賠償責任保険支払請求書や事故発生状況報告書、診療報酬明細書等、多岐にわたります。)を被害者側で集めなければなりません。したがって、手続きとしては事前認定のほうが簡単です。
しかし、被害者請求の場合、加害者との間で示談が成立していなくても保険金が支払われるなどのメリットもありますし、何より、自分でしっかりと資料を準備して申請できるという点が大きなメリットとなります。
高次脳機能障害のように、客観的に後遺障害の存在が明らかとは言えず、後遺障害等級にも幅がある場合には、事前認定によるのではなく、被害者請求によることがふさわしいケースがあります。 -
(3)後遺障害が認められる要件
自賠責保険では、頭部外傷による高次脳機能障害を認定するためには、脳に「器質的損傷」が存在することを要件としています。器質的損傷とは、身体の組織そのものに生じた損傷のことを指し、心因性の障害と区別されます。
器質的損傷が認められる要件は、おおむね以下のとおりです。
① 画像所見
…CTやMRI等で、脳実質の損傷や脳室の変化が確認できること
② 意識障害
…事故直後の意識障害があること
③ 事故後の高次脳機能障害の発現
…神経心理学的検査結果・日常生活状況報告等により高次脳機能障害(認知障害・行動障害・人格変化等)の発現が確認できること -
(4)高次脳機能障害と等級
高次脳機能障害と診断された場合、その症状に応じて、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
1級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(自賠責保険金額4000万円) 2級 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(3000万円) 3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの(2219万円) 5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(1574万円) 7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(1051万円) 9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(616万円)
後遺障害等級の用語は、上記のように抽象的であり、具体的にどのような症状があれば各等級に該当するのかの判断は、法律の専門家でなければ困難です。
なお、高次脳機能障害と診断された場合であっても、それが交通事故以外の要因によって生じた可能性がある場合、後遺障害等級としては非該当という認定がなされます。
3、認定された等級や慰謝料が適切ではないと感じたら
後遺障害等級の認定に不服があるときには、保険会社に対して異議申立てをすることができます。
異議申立てを行うにあたっては、開示を受けた認定理由を踏まえて、どのような事情があればより高い等級認定を受けることができるかを分析することになります。
一般的には、新たな資料を提出しなければ、認定が変更は期待できません。たとえば、新たな検査を受けてその結果を提出する、あるいは主治医により詳しい診断書を書いてもらうことなどが必要となります。
自賠責による後遺障害等級認定に納得できない場合など、自賠責保険に関する紛争については、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構が紛争の調停を行っていますので、自賠責保険に対する異議申立てとは別に、紛争処理機構に対して調停を申し立てることもできます。
4、認定手続きを弁護士に依頼するメリット
後遺障害等級認定の審査は、後遺障害診断書を中心とした書面のみによってなされるため、主治医に適切な内容の後遺障害診断書を作成してもらうなど、関連書類をしっかりと用意する必要があります。後遺障害診断書の作成に際しては、症状について十分に検討した上で、過去の認定事例などをもとに、診断書で強調すべき点・詳細に記載すべき点について適切に記載するように主治医に依頼するべきでしょう。
もちろん、後遺障害診断書には位置による医学的見解が記載されるべきものであって、被害者側がその内容を決定できるわけではありませんが、医師の職務は患者を治療することであり、残存してしまった症状について記載することになる後遺障害診断書の作成については、医師の方の関心が薄くなりがちであるといえるのもまた事実です。そのため、後遺障害等級認定の獲得を見据えた後遺障害診断書を書いてもらうためには、医師に任せきりにするのではなく、被害者の方も主体的に、後遺障害診断書の記載事項を検討していくべきであるといえます。
交通事故の経験豊富な弁護士に依頼すれば、被害者の症状に鑑みて、後遺障害等級獲得の観点から必要な検査が実施されているかどうかを確認し、必要に応じて追加検査を提案したりすることも可能です。
上記のように、より有利な後遺障害等級認定を受けるためには、交通事故に関する法的知識をもとに、医師と協力関係を気付いていく必要がありますが、被害者やその家族がその対応をしていくのは非常に困難なことです。困ったら迷わず交通事故の経験豊富な弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
高次脳機能障害と診断された場合には、以上のとおり、その症状に応じて、補償を受けることができます。もっとも、そのための手続きを適切に進めていくことや、適切な補償を受け取るためには、高度な専門的知識が必要となります。
高次脳機能障害を負ったご本人様、ご家族が適正な補償を受ける機会を失わないように、弁護士がサポートすることが可能ですので、お悩みの場合、お気軽にご相談ください。
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